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初期イスラムの世界


 豊富な文献や翻訳術の進歩、熱心な研究により、7世紀以降のイスラム世界の医学水準は長い間ヨーロッパを凌いでいた。しかしここでも寄生虫に関する知識は、断片的で初歩的なものだった。

 セラピオン(Serapion、8・9世紀)は人間の寄生虫としては回虫、サナダムシ、蟯虫の3種を認めていた。

 ヨーロッパ人がラゼス(Rhazes)と呼んだアラブ学者アル・ラージィ(Ar-Razi、865〜925)は人間に寄生するメジナ虫の観察を行った。

egypte_elephantiasis 象皮病のアラブ女性

E.ゴダル『エジプトおよびパレスチナに関する医学的・科学的観察』パリ、1867年
Ernest Godard: Egypte et Palestine, observation medicales et scientifiques. Paris 1867

 その医学などに関する著作によりキリスト教世界の学者からも大変尊敬されたアヴィケナ(Avicenna = Ibn Sina、980〜1036)は、体内寄生虫を4種(特大、円形、小型、幅広)に分類した。 また、アラビア半島のメジナ(メディナ)地域で特に多く見られる病気を、イルクメディナ(Irk-Medina)と名付けたが、それが寄生虫によるものであるとは考えなかった。

ヨーロッパ人版画家の想像図。イスラム教の医師がメジナ虫を引き抜いている。

H.ウェルシュ『メジナ虫に関する試作』アウクスブルク、1674年。
Hieronymus Welsch: Exercitatio de vena medi Sinae, sive de dracunculis veterum. Augsburg, 1674


 アット・タバリ(At-Tabari、10世紀)は疥癬と疥癬ダニについて認識していた。アヴェンゾアル(Avenzoar = Ibn Zohr、1091〜1162頃)も間欠熱の症状や、古代の学者が述べた内臓寄生虫について若干触れている。彼は疥癬ダニ、シラミ、ケジラミの存在を認めていた。また、象皮病の症状についても記している。これらの記録はヘブライ人医師や中世の百科全書派に多く引き継がれた。


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