[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [INDEX]

日本


「病草紙」
 病気について述べた古い資料としては平安時代の「病草紙」がある。そこには寄生虫に悩む患者の姿も見られる。

肛門がむず痒く悩んでいた娘の睡眠中に、患部を見たところ、会陰部に白い細い虫がうごめいていたという。


五臓六腑の虫
 中国から伝わった「虫」にさらに病原虫を付け加えた日本の巻物。

「五輪砕並び病形」、江戸時代、(京都国際日本文化センター蔵、宗田文庫)。


1)寸白虫

2)伝戸病虫

3)戸病

4)鬼胎

5)五積

6)気積

7)穿心虫

8)五■虫

9)■蝎虫

10)肺呑虫

11)悪虫

12)馬尾虫

13)■虫

14)胃虫
「五輪砕並び病形」
に見られる「虫」
故宗田一所蔵、
W. Michel 撮影
(1994年)


紅毛人が紹介した新しい薬油
 1549〜1639年まで来日していたイベリア系の宣教師および商人は「南蛮人」と呼ばれながら、宗教、文化、概観など彼らと多くの点において異なるオランダ人は「紅毛人」と名付けられた。

薬草を調べる紅毛人
(長崎版画、18世紀、個人蔵)
Komojin


 17世紀中頃以降、出島商館の医師たちの指導により、西洋式の外科学が次第に日本に導入された。当時刊行された「紅毛流」外科書には体内寄生虫およびそれに対する薬油が描写されている。

Gekaryojishu, Worm
「茵陳草花の油」に関する記述。
中村宗興著『紅毛秘傳外科療治集』貞亨元(1684)年(東京、個人蔵)


Orandageka shinan, Worm
「ヲヽリヨコルテシツヒシイテレ」に関する記述。
『阿蘭陀外科指南』元禄9序(1696)年(東京、個人蔵)


言葉と「虫」
 日本語には身体にいる「虫」に言及した比喩的な言い回しがあり、それらの「虫」の多くは心の中にある感情や思いを引き起こすものである。

  • 「ふさぎの虫」ゆううつ(の原因をなすといわれる虫)
  • 「虫を殺す」(癇癪(かんしやく)が起こるのをじっとこらえる)
  • 「虫の居所が悪い」(きげんが悪く、ちょっとした事にもすぐ怒る)
  • 「虫が好かない」(何となく気に食わない)
  • 「虫がいい」(自分に好都合なようにばかり考える態度だ)
  • 「虫が知らせる」(何となく予感がする)体内に虫がいて、それによってさまざまのことが起こると考えた所から言う。
  • 「腹の虫がおさまらない」(腹立たしくて我慢できない)
  • 「腹の虫が承知しない」(同上)

  • 日本初の寄生中学に関する講義
     明治3(1870)年に来日し、大坂医学校教師を務めたオランダ人医師エルメレス(Christian Jacob Ermerins、1841〜1880)は、日本最初の細菌学、寄生虫学及び顕微鏡学の講義を行なった。その講義録は明治7年に『原病学通論』として出版されている。

    Emerins
    エルメレンスと病院長高橋正純
    J. P. Kleiweg de Zwaan: Voelkerkundliches und Geschichtliches ueber die Heilkunde der Chinesen und Japaner. De Erven Loosjes, Haarlem 1917より。


    『原病学通論』
     『原病学通論』明治7(1874)年、第3巻の目次の一部:

    外因
    寄生
    体内動物
    ■蟲
    テニア・ソリュム
    テニア・メヂオカネラタ
    テニア・エキノコックス
    トレマトーダ
    [中略]
    蛔虫
    蟯虫
    腎虫
    アンキロストマム・デュオテヌム
    螺施毛蟲
    ギニヤ蟲
    体表動物
    アカラス・ホルリキュロルム
    疥癬蟲


    体表植物
    トリコヒットンデンス
    [中略]
    体内植物
    オイディウム・アルビカンス
    サリシナ・ヴェントリキュリー

    体表寄生植物の代表的なものトリコフィートンの説明。

    『原病学通論』明治7年(九州大学附属図書館医学部分館所蔵)


    ke-61 寄生虫卵と頭部の顕微鏡図

    『原病学通論』(明治7年)、第3巻(153x225mm、九州大学附属図書館医学部分館所蔵)


    previous
    inserted by FC2 system