Kyushu University Medical Library: Collection of Old Medical Books
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ヒポクラテス
Hippocrates (460 B.C - ca. 377 B.C.)


  • Magni Hippocratis Medicorum Omnivm Facile Principis Opera [...]. Tom.I, II. Geneva, Typis & Sumptibus Samuelis Chouet, M.D.C.LVII.
    医学分館貴重図書コレクション: WZ 250/H 667/v.1/1657



  • hippocrates hippocrates
    『ヒポクラテス全集』ジュネーブ、1657年

     後世に「医学の父」、「医聖」と呼ばれたヒポクラテスは、エ−ゲ海南西部のコス島で医学の指導を行いながら、超自然的な病因や魔術による療法を排除し、医学を「自然科学」へと導いた。いわゆるヒポクラテス集典(Corpus Hippocraticum)という資料群には、コス派と無関係の文献も含まれているが、ヒポクラテスに遡るとされる文書を見ると、彼は病気の経過についてはかなり詳細な記述を残しているが、病名はほとんど記していないことがわかる。ヒポクラテスの関心を引いたのは病気ではなく、病気にかかった患者の方だった。

    hippocrates1657 『ヒポクラテス全集』ジュネーブ、1657年。ギリシャ語の原文とそのラテン語訳



     この発想は彼の視線を医師と医療活動にも向かわせた。ヒポクラテスは、患者に危害や不正を加えないで自分の医術(技芸)の最善を尽くし、差別をせず、生命を尊重するなど、今日でも大いに参考になる医師の倫理を初めて成文化したとされている。「ヒポクラテスの誓い」は、1508年、ドイツ・ヴィッテンベルグ大学で初めて医学生の宣誓に用いられ、とりわけ19世紀以降、西洋の大学医学部の卒業式で広く採用されるようになった。

    ヒポクラテスの誓い
    「医神アポロンをはしめ,すべての男神,女神にかけて,またこれらの神々を証人として,わたしの能力と判断力の限りをつくしてこの誓約を履行するとを誓う。
    私は、私の能力と判断力の限りをつくしてこの約束を守る。この医術を私に授けた人を両親の如く思い、運命をともにし、もし師が金銭を必要とするときには、私の金銭を分けて助ける。師の子弟を私自身の兄弟と考え、彼らが学びたいならば、報酬なしに医術を教える。私の息子、わが師の息子、医の掟により約束と誓いをたてた弟子たちに、医師の戒律と講義その他すべての知識を授ける。それ以外の誰にも与えない。
    私は、能力と判断力の限りをつくして、患者に益する養生法を施し、不正な害を与える方法を決してとらない。頼まれても、致死薬を与えない。そのような助言もしない。同様に、婦人に堕胎器具を与えない。私は純潔で敬虔な生涯を貫き、私の医術を行う。結石患者に載石術をせず、これを業とする人に委せる。いかなる患家に入るときも、患者のためであり、不正や堕落の行いを厳につつしむ。男と女、自由民と奴隷であるとを問わず、その肉体をおかすことはしない。治療に関すると否とにかかわらず、他人の私生活について秘密を守る。
    もし、この誓いを固く守るならば、私は生涯、医術を楽しみつつ生きて、すべての人から名声を得られるよう許したまえ。もし、この誓いを破るならば、これと逆の運命をたまわりたい」。

    病気にかかるとき

     人間と自然の調和を重視していたヒポクラテスなどの古代の医学者は、万物が火、風、水、地の元素からなるというエンペドクレス(紀元前490年頃〜430年頃)の四大元素説を引き継ぎ、四体液説を唱えた。この説によると、人間の体内には栄養摂取による物質代謝の産物である血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁という四原液がある。正常な混合状態ならば、人間は健康であるが、異常混合になると病気が発生する。変調の原因となるのは、環境や生活様式、体質である。

     治療の目的は正常混合の復活である。黒胆汁の過剰による病気の性質は「冷」であるので、過剰な分の排出及び熱性の薬品の服用により身体内の均衡を取り戻さなければならない。「反対はその反対で治療される」(contraria contrariis curantur)というヒポクラテスによるとされている原則は医者の目を病気、薬草、風土及び人間の性質(temperament)に向かわせた。体液病理学(humoral pathology)は、後にガレノスによりさらに体系化され、近世まで西洋医学を支配するようになった。

     

    病気は3段階

     病気には3つの段階が見られる。未熟期(apepsis)では、体液は変化し始める。成熟期に入ると体液の「沸騰」(pepsis, coctio)が起こる。その後始まる分離期には、発症(crisis)が起こり、病原体の排除により病気は治癒する。しかし、病原体が下半身に沈着してしまう場合は慢性病になる。

     上記の体液に加え、東洋医学の「気」に類似する「プネウマ」(pneuma)も古代の病理学に大きな影響を与えた。

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