Wolfgang Michel: Far Eastern Medicine in Seventeenth and Early Eighteenth Century Germany. Studies in Languages and Cultures (Faculty of Languages and Cultures, Kyushu University), No. 20 (2004), pp. 67-82. The published print ヴォルフガング・ミヒェル
欧米において中国伝統医学(Traditional Chinese Medicine, TMC)と呼ばれる医学は近世、近代の東西交流の中で形成された言説であるが、それは当時の中国における各流派の相違を軽視するだけでなく、中国の近隣諸国がそれらの学説を独自の立場から受容し、新たに誕生させた流派の存在までも無視した概念である。本論文が示すように、この誤った見解は、「中国医学」がヨーロッパへ伝わった初期の段階にさかのぼる歴史的なものである。当時情報の発信地として大きな役割を果たしたのは中国よりも、むしろ西洋外科学へ強い関心を寄せた日本だった。一方でヨーロッパにおける「中国医学」の受容の枠組を設定したドイツ自然科学院の医師は、現場からの報告の背景について全く知らなかったため、様々な記述を理解できず誤解はさらに深まった。結局、数十年足らずの間に、鍼灸術は得体の知れない、場合によっては危険な治療法として医学の珍品陳列棚に入れられてしまったのである。
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