『これからのドイツ語』について |
本書は研究書ではなく学習の参考書として学生の役に立つことを目的として います。したがって文法記述の仕方はほぼ伝統的な方法に従っています。しか し個々の内容についてはかなり新しい記述の仕方をとったつもりでいます。次 に本書の特徴を若千あげてみたいと思います。
1．一般に教科書や参考書では会話文や文学作品から取り出した文などの区別 をしないで例文があげられています。しかし，話しことぱとしては普通でも， 書きことぱとしてはおかしいものもあり，逆に書きことはとしてはよくても話 しことはとしては使わないものなどがあることも事実です。こうした点につい ては私たち日本人教師だけではどうしようもないことはいうまでもありません。 本書では「言語使用の層」に注意をうながすという意味から，文体上の区別や 特徴を簡単に例文の後に示しています。しかしその説明まで加えることができ なかったのが残念です。以上，主ないくつかの点に限って言及しましたが，全体的にはかなり新しい 面があることに気がつかれることと思います。しかしまだ不十分な面があるこ とも事実です。私たちはこれからも機会あるごとに本書の改善に努力するつも りでありますから，お気づきの点はどうか御教示下さるようお願いいたします。2．発音に関しては，単に発音記号で示すだけではなく，正しく発音するには どうすれぱよいかにもふれ，文の中でのアクセントやイントネーション，ある いは間のおきかたなどにも言及しています。同じひとつの文でもアクセントの 置き方やイントネーションが異なると，その文の機能が変ってしまったり，文 の意昧が変ってしまうということに注意を喚起したいからです。しかしすべて の例文しこうした表示をすることはできないので，例を示すにとどめています。 またコミュニケーションの手段としてことぱを使用する場合には，ことばその ものに加えて身ぶりや表情なども関与することが多いわけですから，そのよう な「言語外のこと」にもふれています。
3．副詞のように微妙なニュアンスの違いを表現する語は日本語訳を添えるだ けでは理解しにくいことが多いので，同類の他の語との対比において理解でき るように配慮しています。特に話法の不変化詞の場合は日本人学習者にとって 最もわかりにくいのではないでしょうか。
4．受動態の説明にはあまりスペースをさいてはいません。ふつうには能動態 から受動態への書きかえに関する説明が中心になっています。しかし両者はも ともとテーマとレーマの関係が逆なわけですから，機械的な書きかえの結果， あまり意昧のない文が出来上ることが多いし，またそもそも書きかえること自 体が無意昧な場合が多いことを考慮しています。従って受動態そのものの記述 を主にしています。
5．接続法の語形や用法を覚えることも学習者にとっては難かしい点のひとつ Ｌです。接続法IIが日常のドイツ語で多く使われているのに対して，接続法Iは 今日あまり使われていない（使うとしても特定の人称に限られている）のが実二 情です。また接続法IIも特定の動詞を除けぱ「wUfde＋不定形」の形が多いの ，です。以上のような点を考慮して，接続法の学習を必要以上に難かしくしない よう心がけ，直接法ですむところはその旨を書き加えています。もちろん文学 作品を多く読みこなすべき専攻学生のためにはこれでは不十分です。
6．テキストの種類は多種多様ですから，学習者が一冊の辞書だけですべての 単語やその関連を理解することは不可能です。本書では造語法に関する説明を 行ない，辞書のひき方にもふれ，辞書をひいてもわからない場合にはどのよう な方法があるかを示しました。
（九州大学助教授）
