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W・ミヒェル編『村上玄水資料(1)』


中津市歴史民族博物館分館村上医家史料料館資料叢書1、中津市、2003年3月。
Wolfgang Michel (ed): Murakami Gensui Materials 1. Nakatsu, March 2003


 中津(大分県)の名は偉大な思想家、改革者福澤諭吉(1835〜1902年)の故郷として、以前より国際的な百科全書でも紹介されてきた。特にこの20年間、川嶌眞人博士の多数の著書により、福澤を養い育てたこの地が、昔から豊かな土地柄であったことが次第に明らかになった。九州の東部に位置するこの小藩は、江戸時代には旺盛な知的好奇心を持った人物を多数輩出している。中津はどこよりも開放的な雰囲気に包まれ、新しい学問に対しては寛容であるだけでなく、奨励されていた。第五代の奥平昌高をはじめ藩主は蘭学を積極的に取り入れ、昌高は同時代の大名の中でも特に際立っていた。中津藩医・前野良沢(1723〜1803年)らによる『解体新書』(1774年刊)や和蘭辞書『蘭語訳撰』(1810年刊)、蘭和辞書『中津バスタード辞書』(1822年刊)などの出版物は、長い伝統を持つ高度な開拓者精神の証明でもある。

 しかし同時に今日なお中津には未発表のままの、あるいは少数の専門家の間でしか知られていない資料が多数存在する。その多くは、個々の人物や彼らが取り組んでいたテーマや著作、彼らの研究や思想のあり方をより深く理解するための手掛かりとなる。これらの資料の採録や著者に関する研究促進のため、この中から少しずつ出版されるようになった。
 このシリーズは専門家だけでなく中津や近郊の方々、また日本近代化の歴史に興味を持つ全ての方々を対象としている。原文は原典批判版という形を取り、読み下し文に現代訳を付けて講読と理解を容易にした。さらにいくつかの箇所には内容に関する解説や挿し絵を入れ、文章の背景を明確にした。
 第一巻には村上医家史料館から『解剖図説』『佛國暦象編』を取り上げた。二編とも七代目村上玄水(1781〜1844)の遺品による。『解剖図説』は、1819年に玄水が中津藩刑場「長浜」で行った人体解剖に関連して書かれた書である。玄水の解剖は、九州で最初の人体解剖として江戸時代の医学史で重要な位置を占めており、『解剖図説』は彼による解剖とその動機や目的について明らかにしている。『佛國暦象編』は、天文学の専門書を写したもので、玄水の関心の広がりと、地方の蘭学者による研究の方法やその問題点を示している。
 中津における蘭学史を広く研究した編者としては、この資料集をきっかけに、過去の先駆者たちによる精力的な活動について、より多くの方々が関心を持って下さることを願っている。

 目次



W・ミヒェル 「村上玄水の略歴」 1-6



吉田洋一 「解臓記并道原」 4-9

【原文】 10-14

【読み下し】 15-31

【現代語訳】 32-39

大島明秀 「佛國暦象編」 40-43

【原文】 44-75

【読み下し】 76-86

【現代語訳】 87-109

 

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