『人物と交流Ｉ』 中津市歴史民俗博物館分館村上医家史料料館資料叢書Ｖ、中津市、２００６年３月、２０〜６１頁。
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中津藩主奥平昌高と西洋人との交流について |
はじめに
蘭学の発達の過程において、今日多くの文献で「蘭癖大名」と呼ばれる殿様が台頭した[1]。彼らは資金力と人脈を活かし、オランダ東インド会社を通じて舶来品を集めたり、ときには蘭書や出島商館員との交流を通してヨーロッパの言語、文化、科学技術を学んだりしていた。このような活動を趣味として進めた人物もいれば、一見浪費とも見える行為により入手したモノと情報を領内の殖産興業のために活用した人物もいた。蘭癖大名の看板の下に列挙される人物としては、福知山藩主朽木（くつき）昌綱（まさつな）をはじめ、薩摩藩主島津重豪と斉彬（なりあきら）、福岡藩主黒田長溥（ながひろ）と斉清（なりきよ）、佐賀藩主鍋島直正、佐倉藩主堀田正睦（まさよし）、熊本藩主細川重賢（しげかた）等が挙げられるが、その数は決して多くはない。
中津藩の五代藩主奥平昌高（一七八一〜一八五五）は歴史の専門書や一般向けの各種出版物において、そうした蘭癖大名の一人として論じられているが、これまでの研究発表において彼の活動を裏付ける関連資料の提示には問題があり、また、その全貌も十分に見えていない。本論文は、日欧の文献を踏まえた上で昌高と西洋人との接触、交流を追究することを目的とする。その際、通訳などを務めながら重要な役割を果たした神谷源内神谷弘孝（かみやひろよし）の姿もあらためて見つめ直したい。新資料の中ではシーボルトの描写を補う商館長デ・スチュルレルの江戸参府日記の関連記述及び神谷家の系図や明治期の住居地図が注目に値する。また、和訳により西洋人の見方の特徴が失われるおそれがあるため、それぞれの原文も併記することにした。
一、「蘭癖大名」という肩書
残念ながら、「蘭癖」という呼称がいつ頃から利用され始めたのかははっきりしていない。「蘭癖大名」のほか「蘭癖家」、「蘭癖収集家」、「蘭癖商人」などの用例もあり、「世間からは蘭癖と呼ばれた」、「蘭癖とあだ名された」の言い回しが示すように、すでに同時代の人々が当該の殿様などをそう呼んだとする著者もいるが、江戸期の史料には上記のような言葉はなかなか検出できない。この言葉は明治以降に普及した言葉である可能性が高い。今日の国語辞典や歴史事典などにも「蘭癖」という見出し語は掲載されていない。『民間学事典』は唯一の例外として「蘭癖大名」という項目を設け、比較的詳細に説明を掲げているが、「蘭癖」の語源や出典については言及がない[2]。
しかし、たとえ広く使われ定着したとしても、「蘭癖」の内容を検証せずに歴史用語として使えるものではない。悪癖、潔癖、酒癖、病癖など、正常でない偏りを表す「癖」という言葉は一定の否定的な要素と結びついており、「オランダかぶれ」、「西洋かぶれ」などの言葉を連想させかねない。嘉永三年、志筑忠雄訳の「鎖国論」を刊行した黒沢翁満（おきなまろ）は『刻異人恐怖伝』で蘭学者を次のように激しく批判している。
翁満の議論は「蘭癖」の問題とは主旨が異なるが、「癖」の当時の意味合いが現在と同様に否定的なものだったことは明らかである。したがって、歴史的現象としてのいわゆる「蘭癖大名」を描写する際、より中立的な言葉を検討すべきと思われる。また、蘭学者であれ蘭方医であれ「蘭癖大名」であれ、彼らの価値体系と世界観の根底には日本の伝統があることを見過ごしてはならない。
二、奥平昌高と出島商館長ヘンドリック・ドゥーフ
奥平家の四代藩主昌男が天明六（一七八六）年に二四歳の若さで逝去したとき、跡継ぎとなる男児がいなかった。中津一〇万石のお家断絶危機を乗り切るため急遽、薩摩藩第二五代藩主島津重豪（しげひで）（一七四五〜一八三三4]）の次男で六歳の富之進を一二歳と称し、昌高の名で跡目を継がせた。受領名は大膳大夫。中津の経済的苦難は続き、在任中のあらゆる試みも期待通りの成果をもたらさなかった。しかし学問の奨励で、昌高は歴代藩主の中でも第一級の人物に成長した。
幼い頃に薩摩を離れたため、本草学、医学、蘭学で名を知られた父重豪の直接的影響を過剰に評価すべきではないが、昌高が実家を手本にしたことは十分に考えられる。昌高の最初の業績として多くの著者が藩校進脩館開設を挙げているが、同館が設立された寛政二（一七九〇）年にはまだ子供で、その貢献度は小さかったと思われる。
昌高の蘭学熱が正確にはいつ頃高まったのかははっきりしない。一八二六年にシーボルトが昌高は「三〇年前からオランダ人の友人だ」と述べているので[5]、商館長ヘンメイ（Gijsbert Hemmij、一七四七〜一七九八）とすでに接触していた可能性も考えられるが、現存の資料を見る限り、一七九九年から計一七年間も日本に滞在していた商館長ヘンドリック・ドゥーフ（Hendrik Doeff、一七七七〜一八三五）[6]との交流が決定的な契機となったと思われる。一八〇六年、一八一〇年及び一八一四年のいずれかの江戸参府の際に昌高はドゥーフからフレデリック・ヘンドリック（Frederik Hendrik)という蘭名を授かった。
「中津の領主は薩摩の大名の次男で、将軍の義父であるが、その秘書である藩士の一人は、私からピーテル・ファン・デル・ストルプの名を得た。彼の主君、上記の大名も、彼に名前を与えてほしいと、私に強要して已まなかったので、私は遂に彼にフレデリック・ヘンドリックの名を与えた[7]」。
ここで言及される藩主の秘書は中津の辞書編纂に携わった神谷弘孝（かみやひろよし）（源内）である。一八一九年にオランダへの帰国船が遭難し、資料をすべて失ったドゥーフは自分の記憶に頼らざるを得なかった。そのためか、昌高の「命名」の正確な年ははっきりしない。残念ながら、ドゥーフの業務日記にもそれに関する記述は残っていない。一八〇六年の江戸滞在中、昌高の実父島津重豪はドゥーフに様々な自然標本や珍しい鳥などの珍品を贈呈したとされているが[8]、昌高の名は見当たらない。昌高が中津から江戸へ出発したのは、ドゥーフがすでに長崎へ戻っている文化三年五月（一八〇六年六月一七日〜七月一五日）だった[9]。ドゥーフが最後に参府した文化一一（一八一四）年にも二人が会った可能性はない。当時の昌高の江戸への出発はドゥーフがすでに出島へ戻った六月となった[10]。出島商館長日記に見られるドゥーフの二度目の参府旅行は一八一〇年二月一八日〜一八一〇年六月二日となっている。昌高は文化五（一八〇八）年七月四日に江戸に到着してから文化八（一八一一）年まで癇癪（かんしゃく）のため江戸に滞在していたので、ドゥーフとの接見は十分に可能であった。
 図一 『蘭語訳撰』（中津市小幡記念図書館蔵） |
一九世紀に入り、蘭書からの翻訳が著しく増大し、本格的な蘭和辞典の必要性を感じる者も増えた。その一人だった昌高の活動は早くも実り、文化七（一八一〇）年、国内最初の日蘭対訳辞書が刊行された（図一）。
（新集日蘭辞書 中津の領主源昌高により その召使神谷弘孝により一八一〇年刊行）
この『新集日蘭辞書』の凡例で「姑（しばら）クコレヲ題シテ蘭語譯撰トイフ」と説明していることから、この辞書は『蘭語譯撰』と呼ばれるようになった。蘭文タイトルに見られる「Kamiya Filojosi」はピーテル・ファン・デル・ストルプとの蘭名を受けた藩士神谷弘孝である。彼が幕府天文台に勤務する馬場貞由（さだよし）[11]の協力のもとで、天文から植物まで一九の分野にわたり七〇七二語を収録し、当時最も充実した日蘭対訳辞書を編纂した。貞由が記した「序言」によれば、殿様自身も単語収集を行ったという。
このような特殊な書物の市場及び刊行上の技術的な問題を考えると、発行地が江戸となったのは当然かも知れないが、当時の中津の古博多町にも書肆があった。関連史料は残っていないが、江戸期の刊行物の奥付けの「諸国発行書肆」の中に豊前の梅津寿平の名が含まれる数冊を発見できた。それらを見る限り、梅津寿平は寛延期頃から天保期頃にかけて江戸、大坂、京都などの書肆との協力関係を保っていた[12]。しかし、広義の蘭学関係の版本は一冊もなく、地元の書肆は東洋医学、易学、日本漢詩文を中心に扱っていたことがわかり[13]、殿様の蘭学熱に染まっていたのは御典医の一部と江戸詰の側近だけだった可能性も考えられる。
『蘭語訳撰』を刊行する考えが当時の蘭学者やオランダ人との付き合いから生まれたことは容易に想像できる。昌高と交流があった出島商館長ドゥーフも同様なことに力を注いでいた。オランダとその植民地ジャワ島は一七九五年から一八一五年にかけてフランスの支配下にあり、イギリスと戦争状態となったため、彼の滞日期間は長期化してしまった。貿易活動を行えないドゥーフは、フランス人フランソワ・ハルマの『蘭仏辞典』（第二版）[14]をもとに蘭和辞典の編纂を行っていた。幕府が文化一三（一八一六）年にその草稿の増補改版を求めたので、彼は阿蘭陀通詞の協力のもとで、翌年の帰国間際までに『阿蘭陀辞書和解（わげ）』をほぼ完成させた。『ドゥーフ・ハルマ』あるいは『長崎ハルマ』とも呼ばれるこの辞書は写本の形で主だった蘭学塾などに広まっていく[15]。
養子として奥平家に迎えられたので、模範的な藩主になるため努力するだろうと考えがちであるが、驚いたことに、『蘭語訳撰』が出た翌年の文化八（一八二五）年に、昌高は四四才の若さで次男昌暢（まさのぶ）に家督を譲ることになった。シーボルトは「一度オランダ人と個人的に知り合うため」の引退だったと述べているが[16]、昌高は以前にすでに商館長ドゥーフと交流があり、この解釈は信じがたい。また、世の中に背を向けるための隠居でもなかったようだ。昌高は引退後も藩政に関与し、文化一四（一八一七）年三月には溜詰格に、さらに翌月には溜間詰本格に列し、また、侍従に叙せられた[17]。
斎藤阿具は昌高とドゥーフとの関係を示す貴重な史料を紹介している。一八二六年の商館医シーボルトとの出会いは昌高の思い出を刺激したようである。彼は同年七月二七日（陰暦？）付の親友ドゥーフ宛ての書簡をオランダ語でしたため、かぎタバコ入れと一緒にヨーロッパへ送った。
ik heb jaarlijks alle aankomend Heeren na U ed. gevraagd en ik heb vernoomen dat U ed. altoos in volkomen gezondheid blijft. Hier beneffens bekomt U ed. een snuif doos, schoon dezelve een klein geschenk is. Vaar wel gelukkig en leef eeuwig.
Jedo den 27 Zitsiquats 1826
Uw ed[.] Vrind
F. Hendrik
Landsch Heer van Nakats
「私の親愛なる友Ｈ・ドゥーフへ
私は年々渡来する人々に貴君の御安否を尋ね、貴君がいつも御健在である由を承知いたしております。ここに粗品ではありますが煙草入を進呈いたしたく存じます。永らく御幸福と御健康でありますことをお祈り申し上げます。
七月二七日江戸にて 貴君の友人
一八二六年 中津領主F・ヘンドリック[18]」
出島商館の業務日記には関連の記述は見られないが、ドゥーフと昌高との交流は親密だったに違いない。ドゥーフの人柄、日本と日本人に対する開かれた姿勢、その知識と研究活動は昌高の蘭学熱に影響を与えたはずである。蘭学のパトロンとしての昌高公の姿はこの時期に初めて鮮明になる。江戸の蘭学界との接触も見られ、また西洋を理解するには充分な語学力が必要であるとの彼の判断も『蘭語訳撰』の刊行で立派に証明された。
三、奥平昌高と蘭館長ヤン・コック・ブロムホフ
ドゥーフの後任者ヤン・コック・ブロムホフ（Jan Cock Blomhoff、一七七九〜一八五三）も中津藩主昌高と交流があった。一八一八年四月一二日商館長一行が江戸の本石町にあった長崎屋に到着して間もなく、すでに品川でオランダ人との接触を試みた数名の医師らが駆けつけオランダ語の名刺を渡した。
「この一行が立ち去ってのち、品川にわれわれを出迎えに来た若干の日本人すなわち皇帝の医師たちの訪問があったが、検使が許可することを認めなかったので、各人はオランダ語で書いた名刺を渡した。彼らの名は、ウィルヘルムス・ボタニクスすなわち日本の皇帝の医師桂川甫賢、ビーテル・ファン・デル・ストルプすなわち豊前中津の領主奥平大膳太夫〔昌高〕の家臣神谷源内、商人のフレデリック・ファン・グルペン・ファン・ヤパンである。そののち何人かの領主たちと皇帝の医師大槻玄沢の訪問を受けた。これらの人々はみなオランダ語をよく理解し、語り、また読むことができた。[20]」
「奥平大膳大夫」の側近神谷弘孝が大槻玄沢や桂川甫賢[21]のような一流の蘭学者と行動をともにしたことは昌高の情報源の幅広さを物語っている。彼らの語学力が評価されたことも見過ごしてはならない。フレデリック・ファン・グルペンは当時の蘭学者と親交し、たびたびオランダ人と接触していた伊勢屋七左衛門兵助という著名な菓子商人である。
文政元（一八一八）年、四年ぶりに江戸に滞在するオランダ人の宿を訪れる訪問客は後を絶たなかったようだ。一八一八年四月一七日及び二六日、神谷弘孝もその一人だった。
「夕方、〔皇帝の〕医師のボタニクスと金兵衛[23]が、〔中津の〕領主の家臣ファン・デル・ストルプとともにやって来て、われわれとともに食事をした。[24]」
「〔長崎〕奉行の家臣数人がきたが、さらにボタニクス、ファン・デル・ストルプ、およびファン・グルペンも、彼らの妻や子供を連れてやってきた。[26]」
その翌日、ブロムホフは土井藩主の近侍鷹見泉石（たかみせんせき）（一七八五〜一八五八）にヤン・ヘンドリック・ダッペルという蘭名を与え、天文方高橋景保が持参したプトレマイオスの肖像画に幾つかの字句（法則か格言か）を書き入れた上で金メッキの小型コップを贈呈し、また、大槻玄沢と神谷源内には薬瓶を渡した。
「鷹見十郎左衛門[28]と名乗る（土井大炊頭[29]という領主の）家臣はすでに長らく私にオランダ語の名をつけて欲しいと求めていた。そこで私は彼にヤン・ヘンドリック・ダッペルという名をつけた。また私は天文学者グロビウスの求めにより、記念にプトレマイオスの肖像の下に記念に二、三の字句を揮毫した。［中略］また私は首席天文方グロビウス（高橋）に金メッキを施した小型コップ数個、皇帝の首席医師玄沢氏には栓つきの小さな薬瓶数個、豊前国中津に住む領主奥平大膳太夫の家臣ファン・デル・ストルプ氏には同じ薬瓶数個の贈物を与えた。[30]」
その二年後の文政三（一八二〇）年に、ブロムホフが昌高の料理人加藤彦兵衛（Katoo Ficobij）に「Lodewijk Smulgraag」の蘭名を授けたと板沢武雄が述べているが、それを裏付ける史料としてあげた｢ホフマン博士の著書｣は確認できなかった[31]。
同年、参勤交代における下関の陣宿だった伊藤家で、奥平昌高はヘンリック・ファン・デン・ベルグという蘭名を持つ宿主伊藤盛永のために蘭文詩を書いた。この一枚は今日まで伊藤家に伝わり保存されている。内容の深さはともかく、韻も踏んでいて、殿様のオランダ語力は印象的である。
Hendrik van den Berg is een van de menschen
Die ’t bloeijen van het Hollands handel wenschen<
Hij is, als wij, een van de liefhebbers van de Hollands waaren
Zoo moet hij hoopen dat de scheepen jaarlijks naar Japan vaaren!
Boenseij 3de jaar Geschreven
door
den vorst en kasteel eigenaaar
van Nakats in’t landschap
Boezen
Frederik Hendrik[32]
「下関のオランダ宿主の頼みに応じて。ヘンリック・ファン・デン・ベルグはオランダ交易の繁栄を望んでいる人々の一人なり。彼は我らが如くオランダものの愛好家の一人なり。故に彼［オランダの］船が年々日本に渡来することを希望しなければならぬ。豊前国中津の領主にして城主なるフレデリック・ヘンドリック誌す。」
オランダ商館長の次の江戸参府は予定通りの文政五（一八二二）年に行われた。下関で瀬戸内海の船旅を準備するブロムホフは、同宿でこの蘭文詩に感激し、昌高に自分の喜びと思いを寄せる讃詩を残した。
Aan zijne Excellentie, Fredrik Hendrik, vorst, en kasteel eigenaar
van Nakatsu, in het landschap Boezen. Door
Den ondergeteekende, op zijne doortogt als gezant na’t Keizerlijke Hof.
Hoe trof mijn hart die schoone zuivere taal!
Als ik, mijn vriend! Uw land ten tweede maal
Betrad; geuit in digtmaat, door Uw eigen hand geschreven,
Bewijst, hoe gij mijn vorst, in ’t Hollands zijt bedreven.
Hoe gij vermaak schept in al ’t geen mijn landaart is gewoon
Te dragen en te doen, toont aan Uw smaak en een gevoel zoo schon!
Daar weinig voorbeelden, ergens van zijn te vinden,
Gaat, bid ik, hierin voort, met d’overige vrienden,
Dat niets die zugt, voor al wat Hollands is, in Uw verdooft,
Dit hoopt, dit wenscht gestaag! Het Hollandsch Opperhoofd
en Ridder van de Orde van den
Nederlandschen Leeuw
J. Cock Blomhoff [ppm]
Simonosekij den 18e Februarij 1822.[33]
「中津の領主フレデリック・ヘンドリック閣下に奉る。使節として宮廷へ旅行の途上にて下名より。
わが友よ、私は再び貴国に参った時
私の心は美しく純な言葉にどんなに感動したことでしょう
詩にうたい、自らの手で記して、殿よ どんなに貴下のオランダ語がすばらしいかを示しています
私の国ではありふれたことが
どれほど貴下を楽しませ この言葉には貴下のこころばえと感じる心があふれています
これにくらべられｒものはどこにも見当たりますまい
私ねがいます 他の友と手をたずさえてこの道を歩み給えと
オランダのしきたりをあくことなく求める心を失わない熱情
それを乞い 絶えずそれを願うは
オランダ商館長 ヤン・コック・ブロムホフ
オランダ獅子団の騎士
一八二二年一月一八日 下関にて[34]」
一八二二年三月二六日江戸について間もなく、前回の江戸参府で親しくなった馬場貞由及び神谷弘孝が駆けつけた。
「江戸の宿の主人が挨拶にやってきた。同様にまた江戸の友人、アブラハムおよびファン・デル・ストルプが私をここに出迎えた。[36]」
昌高公は前年から癇癪のため滞府していたが、このとき商館長と会ったかどうかは明らかではない。ブロムホフの日記は贈り物の交換に言及しているが、昌高の息子、夫人二名、及び医師を含む家臣三名に蘭名を授けたとしか記していない。
Verzogt zijnde door eerstgenoemde Landsheer om zijn zoon, twee van zijne vrouwen, en drie dienaren, waaronder een Doctor, namen te geven, zoo noemde dezelve
Zijn zoon - Maurits
2 vrouwen - Carolina Vrolijk
Charlotte Blom
Doctor - Jacobus Paracelsus
Dienaar - Gerrit Pasop
Pikeru - Pieter Hart,
Hetwelck thans alhier een rage wordt.[37]
「［われわれ］オランダ人のさまざまな友人たちに数多くの贈物を贈り、また受けたが、それらの人々のうちには、二人の領主フレデリック・ヘンドリックとヨハネス・ヴィルヘルムス[38]がいた。
最初に名をあげた方の領主によって、彼の息子、彼の夫人達の二人、および医者一人を含む家臣三人に名前をつけて欲しいと求められたので、次のように名付けた。
彼の息子 マウリッツ
二人の夫人 カロリーナ・フロールック
シャルロッテ・ブロム
医者 ヤコブス・パラセルスス
家臣 ヘリット・パソップ
馬術指南 ピーテル・ハルト
こんなことが今や当地では大流行となっている。[39]」
彼の選択した名を見ると、多少の遊び心が感じられる。大変陽気な人柄のためか、昌高の夫人おりえ（？）はCarolinaVrolijkと命名された[40]。もう一人の夫人お鶴（？）はCharlotta Blomとなり[41]、「長男」昌暢[42]はMauritsの名前を与えられた。家臣Gerrit Pasopの背景は不明だが、馬術指南Pieter Hartは小林リ宗右衛門（Cobajasi Risoijmen）であり[43]、Jacobus Paracelsusと命名された医者Ooijeは大江春塘（しゅんとう）と思われる。
一八二二年四月一四日の商館長日記によれば、ブロムホフは昌高を含む三名の領主との贈り物の交換を行った。
「午前一一時にまた天文学者の一団がやって来た。［中略］中津の城主フレデリック・ヘンドリックおよび尾張［犬山］の領主ヨハネス・ヴィルへルムスに、さまざまな贈物を贈られたり贈ったりした。[45]」
ブロムホフと共に江戸へ来た商館員フィッセル（Johan Frederik van Overmeer Fisscher, １７９９-１８４８）が帰国後著した『日本風俗備考』には、夕方頃オランダ人の宿を訪れる大物（groote Heeren）及び一連の蘭学者に関する記述がある。そこに中津藩主の名はあげられていないが、昌高の側近の動きは確認できる。
｢また、中津の領主の諸家臣も来訪し、主君と同様にオランダの名前を求めた。彼らは、ただひたすら我らの風俗を知得するため、好んで我々のところに居た。」
｢そのほかに我々は松前、丹波の領主や、ミナガワ・サガミという皇帝の秘書官、皇帝の弟である水戸の領主の訪問を受け、なお中津、ヒラカタ［平戸？］、尾張、加賀などの領主の秘書官も多数来訪したので、我々は孤独や退屈を訴える必要がなかった。｣
この資料は昌高公の来訪には言及してないとしても、ブロムホフと中津藩との交流を裏付けている。同年四月二一日、商館長一行が江戸の長崎屋を去ることになったが、市内の通りは紅毛人を見ようとする住民で大混乱に陥った。途中、薩摩藩の屋敷があったので、オランダ人たちはそこで彼らを待っていた昌高の実父重豪に別れを告げるために駕籠から降りた。
｢薩摩領主の邸宅の近くで、我々は乗物を下り、この尊敬すべき老侯の家族に挨拶するために、歩いて通り過ぎた。みな領主と共に窓に姿を現わし、我々が通り過ぎるまで見送った。｣
この日も翌日も昌高の姿は現れないが、昌高の息子たちが、大森村（現在は東京都大田区）に赴いている。オランダ語の挨拶｢eerste maal gezienから、彼らとブロムホフは初対面だったことがわかる。
Na een weinig vertoevens gingen weder voort, nogmaals afscheid nemende van de vrienden Abraham, van der Stolp, en Dapper, welke bij de zoons van den Landsheer waren en mij to de norimonds uitgeleiden;gelijk zij mij gerecipieerd hadden [...]49]
「七時にわれわれの旅行を続行し、そして九時一五分前に大森で休憩、その場で私は中津の領主の二人の息子に出会ったが、彼らはわざわざそこに来ていたのである。長男は、一四才の若者で、同人に私は、先に、彼の父フレデリック・ヘンドリックの要請によりマウリッツという名前をつけてあった。そして二男は一〇才であり、大勢の従者を引き連れていた。［中略］少しの間留まっていたあとで、われわれは再び旅を進めたが、もう一度友人たち、すなわち、アブラハムとファン・デル・ストルプとダッペルに別れを告げた。彼らは、領主の息子たちの近くにいて、彼らが［江戸入りのさい］私を出迎えたときと同じように、私をノリモンまで見送ってくれた。[50]」
昌高の長男富之進はすでに文化六年に死去しており、この「長男」とは文化八年に奥平家の家督を継いだ次男昌暢（まさのぶ）、また「二男」は天保四年に七代藩主として就任した三男昌猷（まさみち）だった。二人の公子が引き上げて間もなく、近くに待機していた馬場佐十郎（Abraham）、昌高の家臣神谷弘孝、古河藩の鷹見泉石が別れを告げた[51]。
商館員フィッセルも上司ブロムホフと同様に藩主の息子たち及び側近との出会いを紹介している。
｢四月二十二日、旅を続けていると、数マイル先の大森にて、中津領主の二子と出会った。おそらく江戸では我々と内密に出会うためのよい機会を得られなかったので、ここまで来られたのだ。年長の方が蘭語で「Eerstemaal gezien」と言いながら、大変愛想よく我々の挨拶に答えた。これは日本人が初めて出会う際に通常使われる言葉である。この若い王子はMauritsというオランダの渾名を有し、父と同じく我々や我々の習慣に大変な関心を寄せているようだ。江戸で度々我々を訪ねて来た召使い数人が彼らに随伴しており、今彼らも我々に別れを告げた。｣
フィッセルが昌暢のオランダ語の挨拶｢eerste maal gezien｣に関する解説を付けているのが興味深い。オランダ人読者にとって多少分かりにくいためでもあるが、彼はこの言い回しを日本語の一種の直訳として理解していた。
文政六（一八二三）年七月一四日桂川甫賢、鷹見泉石、神谷弘孝、伊勢屋七左衛門らがブロムホフの誕生祝の寄せ書きを送ったこともその親しさを裏付けている[53]。
同じ一八二三年昌高の近習医大江春塘はローデウェイク・メイエルが編纂した『語彙宝函』（Woordenschat）[54]の第一部を日蘭対訳辞書として刊行した。興味深いことに、書名などはすべてローマ字表記のものだった。
（新しく刊行された外来語辞典。中津領主の侍医大江春塘により。江戸にて、一八八二年）
編纂の経緯に関する情報源としては、昌高が巻頭に寄せたオランダ語の序文しか残っていない。その中で昌高は時計を製造するために様々な道具が必要であるのと同様に、オランダの書物を読み、理解するには、種々の辞書、とりわけ「Bastaarde Woorden」（外来語）が必要であると強調している。オランダものの愛好家と自負していた昌高はまた、同様の考えを持つ数多くの「dienaeren」（召使）の中でも最も優れていた二人の人物の貢献を讃えている。一人は『蘭語訳撰』を刊行した神谷弘孝、もう一人は『バスタールド辞書』の刊行に多大な労力を注いだ大江春塘という医師である。また昌高が間違いの訂正で言及している「Sadayosi」という人物は、幕府の天文方に仕え、翻訳者及び蘭学者として数々の業績をあげた馬場貞由（佐十郎、一七八七〜一八二二）だった。彼は志筑忠雄からオランダ語を、ドゥーフからオランダ語とフランス語を、また後にロシア海軍士官ゴローニン（Vasilii Mikhailovich Golovnin, １７７６-１８３１）からロシア語を学んだ秀才であった。大江春塘と藩主昌高は最高水準の蘭和辞書を目指した。
ブロムホフが商館長を務めた六年間（一八一七〜一八二三）に江戸の蘭学者の活動はより鮮明に見えてくる。蘭名の授受は上記の例を遙かに超える頻度で行われており、「流行」という評価は過言ではない。また、江戸へ赴くブロムホフは訪れる蘭学者らに関する情報を前任者ドゥーフから入手しそのための準備をしていたようだ。商館日記の書き方はそれぞれの商館長の性格により詳細になったり、大雑把になったりしているので、昌高及び神谷弘孝の動きが以前より活発になったとは断言できないが、源内が当時の交流に大いに貢献したことは間違いないであろう。残念ながら、『バスタールド辞書』で歴史的な業績をあげた侍医大江春塘はオランダ側の資料にはほとんど現れない（図二）。その辞書の底本だったメイエルの『語彙宝函』をどのように入手したのか、また、内容的に決して平易ではない外来語についてオランダ人の助言を求めたかどうかなど、編纂作業に関する未解決の疑問も残っている。
四、商館長デ・スチュルレル及び蘭館医シーボルトと昌高との交流
一八二三年一一月二〇日からデ・スチュルレル（Johan Willem de Sturler、一七七六〜一八五五）が三年にわたり出島商館長を務めることになった。彼とともに着任した医師シーボルト（Philipp Franz von Siebold、一七九六〜一八六六）とその業績に関しては数々の研究があるが、ここでは中津藩との交流のみに着目することにする。
板沢武雄によれば、文政七（一八二四）年に、デ・スチュルレルが出島で家臣神谷弘孝の子息久蔵（Kioezoo）にKlaas Kroonと命名した55]。ここから中津藩とオランダ人との交流が継続されていたことがわかる。興味深いことに中津藩の「嘉永三年改」により文政六年及び七年に昌高の典医大江春塘も御用で長崎へ赴いたことが確認できる[56]。また、裏付けの史料は不明だが、典医村上玄水に関して同様のことを先行研究が主張している57]。間違いなく昌高は文政七年三月三日に江戸に向かい、翌年五月に隠居している。しかし、この間に行われた家臣達の長崎での業務は一体どのようなものだったのだろうか[58]。
文政九（一八二六）年の春にデ・スチュルレルとシーボルトらは江戸へ旅立ち、北部九州を横断したのち、下関の宿で瀬戸内海の船旅の準備に取りかかる。ここで、シーボルトは後に『Nippon』に掲載する昌高の上記の蘭文詩及びブロムホフの讃詩を写した[59]。
シーボルトシーボルトは昌高を「中津の王子」あるいは「中津の主君」と呼び「オランダ人の高貴な庇護者」として評価している[60]。四月七日に箱根から下山したところ、江戸の豪商の別荘でその持ち主とともに神谷弘孝に迎えられた。翌日の宿泊先では、薩摩及び中津の両藩主が川崎で出会う予定との報告を受けた。
「われわれはまだ早い時刻に藤沢に着いたが、いちばん大きくて上等な宿がすでに満員だったので、運悪く一軒の娼家に泊まらされた。ここでわれわれは、明後日川崎で江戸からくるたくさんの友人の訪問を受けることになっていると聞いた。訪問者のなかには薩摩の王子と中津侯がおられる由。[62]」
しかし、川崎に到着したときにデ・スチュルレルは、昌高の側近（神谷弘孝か）から中津藩主のオランダ語の名刺を受け取り、両公との出会いは一日延期された。
「今日は川崎に到着し、そこに我々と関係がある江戸の人々が数多く歓迎しに訪れて来た。また薩摩の旧領主とその息子である四級侯・中津の旧王子（あるいは領主）との明日の出会いが伝えられた。後者はその家臣を通じて上記の肩書き付きのフレデリック・ヘンドリックというオランダ名が書かれた名刺をくださった。」
四月一〇日（文政九年三月四日）、昌高は実父である薩摩藩主島津重豪とともにシーボルトと顔を合わせることになる。二人の強い好奇心とシーボルトの積極的な対応は印象的である。
Er knüpfte nun durch Vermittelung seines Dolmetschers [＝神谷弘孝] ein weitläufiges Gespräch an, fragte nach meinem Taschenchronometer, besah meine Epauletten und erkundigte sich nach deren Bedeutung, die ich politisch als Zeichen des Ranges angab. Absichtlich hatte ich, um Gelegenheit zu finden, meine Berechtigung zum Tragen des Degens diesen Herren zu erkennen zu geben, mein Degengehänge angelegt, und als er nun neugierig nach dessen Bedeutung fragte, erklärte ich, dass es mein Degengehänge sei, welches ich zur Erinnerung, dass ich allezeit im Dienste S. M. des Königs einen Degen tragen müsste, angelegt hätte. Es wurden inzwischen Konfitüren und Gebäcke diesen Grossen vorgesetzt, und unter wechselseitigem Gespräche erhielten wir die ehrenvolle Zusage, dass sie uns bei unserer Anwesenheit in Jedo, jedoch nur inkognito, besuchen wollten, worauf wir uns empfahlen.[64]
「四月一〇日 今しがた述べたのと同じ名まえの大森村では薩摩と中津の両侯が江戸から来て待っておられ、われわれと知り合う機会を得られたが、これまでは大名の身分やその他の事情がそれを許さなかったのである。この身分の高いオランダ人の庇護者は、使節の一行が普通休息することになっていた宿屋におられ、われわれは控えの間でしばらく休んでから歓迎を受ける光栄に浴した。両侯は薩摩の若君と共に、たいそうな好意でわれわれを迎えて下さった。われわれが日本流にすわっていると、その間に運び込まれた椅子に掛けるようにすすめられた。薩摩侯は八四歳の老人でおられたが、たいへんに話がお好きで、耳も目もなお完全に元気で強壮な体格をしておられたので、せいぜい六五歳ぐらいだろうと思う。対談中にはところどころでオランダの言葉を使い、侯の注目を集めたいろいろな品物の名をたずねられた。使節との話が終わると、こちらに向き直って私の名を呼び、自分は動物や天産物の大の愛好者で、四足の獣や鳥を剥製にしたり、昆虫を保存する方法を習いたいと言われたので、私は喜んで助力を申し出た。それから侯は私に最近丹毒にかかった右手を見せた。まだ一ヵ所口が開いていて、鉛丹膏が塗ってあった。私はちょうど居合わせている侍医の面目を傷つけないようにして、それを使用するのはこの場合不適当であることを説明した。私は必要な薬を書き記して、最初の便で送ろうと申し出た。ちょうど私がこの親切な老侯の前に日本流にすわっていた時、中津侯は私の手をとって次のようなオランダ語ではっきりと言われた。「ドクトル・シーボルト、私の方へ来たまえ。手紙と贈物を下さってありがとう」と。
それから彼は通詞を介して長々とした会話を始め、私の懐中クロノメーターのことをたずね、私の肩章をみてその意味を問いただした。政策上私は階級を示す徽章であると述べた。私はおりがあれば、剣を帯びる資格があることをこの人にほのめかして、わざわざ剣帯を着けていた。すると彼は好奇心をもってその意味をたずねたので、これは私の剣帯で、いつも皇帝陛下の軍職にあるうちは剣をさげねばならないことに留意して、この剣帯をしめている旨を、説明した。その間に砂糖菓子や焼菓子が大名がたの前に出され、交互に言葉を交わすうちに、われわれが江戸に滞在中、表向き身分を名のらずに訪ねたいというありがたい約束の言葉を賜わり、まもなくお別れした。[65]」
商館長デ・スチュルレルもこの出会いに関する印象を商館日記で述べている。興味深いことに、彼は茶屋の名前として｢和中散｣をあげているが、それは食あたり、暑気あたりに効くとされた漢方薬和中散を売る薬屋の意味のはずである。大森付近にあった『梅木堂』は東海道で｢和中散｣を販売する三軒の中で一番の大店だったが、久三郎の代から、庭の梅木で有名になった茶屋も運営されていた。
「六時頃宿を出て、七時半に大森に着いた。そこで和中散という茶屋において、上記の両領主及び上記の領主の一番下の息子と出会った。われわれは彼らにこの上なく丁寧に愛想よく歓迎された。そしてしばらく彼らと談話した。目下老王子はすでに八三才だが、まだ大変健康であり、私に日本のリキュール及び塩漬けの鵞鳥をプレゼントしてくれたり、自分用のタバコの小袋をくれるほどの親切さだった。その際、彼はそれが長命のしるしになるよう、という願いを付け加えた。閣下は手の患いがあり、そのために医師の助言を求めた。中津の王子も腕の患いで助言を求めた。閣下が明日の夜、江戸でわれわれを訪問してよいかと尋ねたことに対し、私は是非その名誉にあずかりたいと返事した。それから二人の王子に別れを告げた。」
その都度メモをきちんと取らなかったためか、或いは帰国後、それを十分に理解できなかったのか、シーボルトの記述における誤解、勘違いは決して珍しくない。昌高の感謝の言葉によれば、二人の顔合わせは以前から計画されていたことがわかる。商館長一行はその日に本石町三丁目の長崎屋に到着し五月一八日まで江戸に滞在することになった。同時に自分の江戸屋敷に戻った昌高はその翌日の一一日に再び現れる。この面会についてもシーボルトは詳細に描写している。残念ながらここにも幾つかの勘違いや誤解が見られる。
Vorzüglich war es mein Pianoforte, das dem Prinzen äusserst gefiel, sowie auch Chronometer, Mikroskope und andere Instrumente. Durchgehends war der Prinz mit allem bereits bekannt und überraschte uns durch Vorzeigen verschiedener Uhren, unter welchen eine Uhr uns erfreute, deren Zifferblatt nach dem Dezimalsystem angelegt und mit Metallkompensation versehen war und dazu noch ein Thermometer u. dgl. enthielt. Er liesse die vorgesetzten Speisen und Getränke sich trefflich munden und verliess uns erst spät in der Nacht.［67]
「四月一一日 到着の直後、旅行中われわれに同行した上席番所衆は他のふたりの番所衆および勘定方を伴い来訪、江戸在勤長崎奉行の名において使節に歓迎の意を表した。われわれはこの人たちを丁重に迎え入れ、リキュールや砂糖づけの果物を出してもてなした。これはいわゆる慣例である。将軍の侍医やわれわれを品川まで出迎えてくれたオランダ人を崇拝する連中は、面会を求めたが番所衆はそれを許さず、ただ名刺を差し出しただけであった。戯れにウィルヘルムス・ボタニクスと呼ばれる桂川甫賢、さらに中津侯の家臣でピーテル・ファン・デル・ストルプという人、つぎは奥平大膳大夫の家臣で神谷源内[68]、菓子商人のフレデリック・ファン・グルペン、最後に医師大槻玄沢であった。大部分の人はオランダ語を話したり聞きわけたりした。また江戸駐在の才四郎[69]は妻を同伴して訪ねてきた。町奉行と外国人接待係は使節一行の到着の通知を受け、これに対し祝意を表する旨が、使節に報告された。中津侯も晩には来られるという連絡があった。
それゆえ万事ヨーロッパ流に侯をお迎えする準備をととのえた。彼は三〇年来の友であるオランダ人と一度親しく知り合いになるために、隠居していた。そうしなければ、大名がわれわれと親しい関係を結ぶことはできないからである。われわれは夜の時間をこの上なく楽しく、全くくつろいだ態度でこのオランダ人の愛好者と過ごした。側近ピーテル・ファン・デル・ホルプ［ﾏﾏ］、幕府の御用菓子屋で、中津侯お気に入りのファン・グルペン、侍臣カイト（Keit）[70]。各人は非常にうまくめいめいの役を演じたので、私はこらえていることができず、フランス語で、これは私が今まで見たことのない独創的な喜劇だと使節に耳うちした。読者はこれらの日本人をご想像いただきたい。すべてオランダ風なものに身も心もうちこみ、あるいは交互に、あるいはわれわれ相手に破格なオランダ語で話しあい、例の肥った腰巾着の高笑い、きれいに剃った頭、歯のぬけたかすれた声のファン・グルペンの、愛想はよいが緊張して操る対話、こういうものが好奇心から打ち解けた気持になった侯のまじめさと溶け合って興味深い一団となり、百年前の流行から採ったような間の抜けた服装をしてわれわれの側に腰掛けていた。一方では、お付きで、オランダ語が非常にうまく、たいへん如才のない男が、殿の良い指導者をつとめたけれどもこの場面は終始とてもおかしな効果を発揮せずにはいなかった。それからこの愛好者をお迎えするために、いわばヨーロッパの学術の博物館のように、いろいろな器械類や書籍などを陳列しておいたわれわれの部屋に来られた。とくに侯の気に入られたのは私の小型ピアノであったが、また時計、顕微鏡、その他の器具にも注目された。侯はたいていすべてのものをすでにご承知で、いろいろな自分の時計を出してわれわれを驚かせたが、その中のひとつ、文字板が１０進法で書いてあり、金属製の調節装置をそなえ、そのうえ寒暖計などもついていたのがあって、われわれを喜ばせた。侯は差し上げた飲食物をおいしそうに口にされ、夜更けてからやっと帰途についた。[71]」
商館長デ・スチュルレルもこの四月一一日の夜を詳細に描写している。シーボルトは日本人の振るまいを｢喜劇｣として受け止めていたが、デ・スチュルレルは、そのようなことを一切感じさせず、むしろ両方の礼儀正しさを強調している。
Ook is mij heden hoop gegeven dat de oude Landsheer van Satzuma, ons in het kort met een bezoek zal vereeren.[72]
「夜七時半頃、中津の王子一行数名の訪問を受けた。彼は、欠点はあるがある程度ヨーロッパ風の我々の住まいの家具を気に入ってくれた。彼は我々が持参した品々の幾つかをご覧になりたいと望み、その大抵は大変に気に入ったようだった。また彼は医師のピアノを聞き、彼の天文学及び自然科学関係の道具を見学した。そして王子はオランダ料理を食し、我々の食事の習慣をご覧になりたいという願いを示唆したので、私は設備及び状況が許す限り食卓を整えさせ、王子にそこで一緒に食事するよう誘った。王子はそれを受け入れ、我々とともに食卓に座り、様々な料理を味見し、気に入られたようだ。このもてなしに大いに満足し、彼は一一時に帰っていった。すばらしいもてなしに対する礼を述べながら、彼の妾の二人が我々の住まいを見学してもよいかと尋ねた。私は、この貴婦人たちを歓迎することは私にとって特に嬉しいことであると返事をし、その状況に合わせてあらゆる礼儀を尽くした。また今日は、薩摩の老領主が近いうちに我々をご訪問になるとの連絡が入った。」
シーボルトは上記の一一日のことには言及せず、翌一二日の訪問を概観しながら、踊りに関する昌高の「比較文化論」への驚きも記している。
「［一八二六年四月一二日］夕方、中津の領主が表向き身分を名のらずにこられ、一二時すぎまでおられた。われわれは彼を楽しませるためにあらゆる努力をし、音楽や歌や踊りをして楽しい一時を過ごした。ヨーロッパの踊りに関する彼の評価は大変ユニークなものだった。日本の踊りと比較して次の言葉を述べた、「オランダ人は実に足で踊るが、日本人はそれに対し手で踊る。[74]」
当日の商館長日記は、デ・スチュルレルが主役だったとの印象を与える。
「夕方、昨日の持てなしのお礼を言うために突然中津の王子が来られた。彼はしばらく私と談話し、贈りものとして日本の絵をくださった。それから別れを告げ、帰るときに医師と書記［ = Heinrich Bürger］を訪れ、前者がピアノを弾くのを聞いた。」
こうして交流するうち、シーボルトは少しづつ重豪らに対する理解を深め、昌高を含む彼の一族の人柄、礼儀正しさ、上品さを高く評価するようになった。記述にはところどころ抑え切れない皮肉さが見られるとはいえ、シーボルトが深い感銘を覚えたことは間違いない。
「晩に中津および薩摩の両領主の正式の訪問をうけ、雅びな贈物をいただいた。このふたりの大名は音楽・詩歌・書籍・機械類などの話をしながら、夜の大半をわれわれのところで過ごされた。薩摩の老侯は、私が侯を自然科学ならびに医学の門人のうちに加え、侯のために非常に危険な日本の病気についての簡約な治療方法を編纂するよう切望された。（薩摩）侯は一羽の鳥を持って来られたが、私はお望みにこたえてただちに剥製にしてお見せすると、たいへん満足のご様子であった。私は両侯に立派な贈物を差し上げたが、おふたりとも感謝しておさめられた。老侯は以前に帝（みかど）から下賜されたご自分の扇子をくださった。
両侯はすでにずっと前に私の診察をうけられたことがあるが、現在お元気である。老侯の側室がたもいっしょにみえていたが、その中には将軍の御台所の母がおられた。おみやげにヨーロッパの装身具が残っていたので差し上げた。これらの夫人のうち最も身分の高いお方を診察する光栄に浴した。右胸部の硬化のためで、人々は胸部をあらわにして診せるのをためらった。しかし私は、医師としておそらくヨーロッパの方法で診察を行う同意を求めねばならないむねを説明した。全住民のうちの大名という階級をわれわれによく示しているのは、この人たちの愛すべき家族たちであった。端正・礼儀作法と上品、心からの親切・誠実・誇りの影さえみせぬつつましやかな教養などはお丈夫な老侯にも、子供たちや夫人たちにも現れていた。要するにこれらすべては、教養あるヨーロッパ人の尊敬に値する特性である。[77]」
長時間にわたったこの訪問は商館日記にも詳細に記録されている。デ・スチュルレルは再び客の勉強熱心さ及び礼儀正しさを繰り返し描写している。
De oude Landsheer en zijn gezelschap bezagen onze woning die wij eenigzins naar de Europesche wijze hadden ingerigt, kleederen, meubelen enz. hoorden vervolgens den Doctor klavier spelen, bezigtigden zijne sterrekundige en overige Instrumenten boeken enz. Ik had op verlangen van den ouden Vorst de tafel doen dekken, en liet het eten opbrengen, de oude vorst en de vier andere Prinsen zetten zich met ons aan tafel an soupeerden, ik merkte bij deze gelegenheid dat onze tafelgebruiken en ook onze spijzen den Prinsen wel bevielen, zij trachtten zelfs daarbij onze manieren aan te nemen.
De Vorst hat het verlangen geuit om van Dr v. Siebold hat opzetten van vogelen te leeren en had tot dat einde een dooden vogel meegebragt, na de Tafel wierd door den Dr aan zijn verlangen voldaans.
De Dames bleven altijd bij het overige gezelschap, zij waren zeer vriendelijk wellevend en in het minst niet terug houdend. Zij zaten wel niet met ons aan tafel, daar de gebruiken alhier die niet gedogen, doch zij gebruikten het een en ander van het souper.
Om middernacht vertrok de Vorst en zijn gezelschap, hunnen dank betuigende voor het genoten onthaal en de Dames geven te kennen dat zij gaarne nog eens het verzoek wenschten te mogen herhalen.[78]
「夜七時頃、薩摩の老領主とその息子三名（久留米の旧領主、中津の旧領主、及びおよそ一三歳の若い息子、父親と同様に目下薩摩の領主である小さい息子）及び六名の婦人（その中に老領主の妾の二人、久留米の旧領主の妾一人、前者の二人のうち一人は現在の皇后（皇帝の正妻）の母親（お富の方[79]）が来られた。私及びその他二人の紳士に、威風堂々たる様子で老領主とその次男の名において贈り物をくださり、前者は自らそれ以外の幾つかの小さな品を我々に手渡した。一昨日私の所に来られた中津の王子に柄付き眼鏡を差し上げたので、老領主も眼鏡を所望した。それを彼に贈ったところ、上記の皇后の母親も同様のものを希望し、私は即座にそれを叶えた。
老領主一行はある程度ヨーロッパ風の我々の住まい及び服装、家具などを見学してから、博士のピアノを聞いたり、天文学などの道具や書籍などを見たりしていた。老領主の要求で私は食卓を整えさせて料理を出し、老領主及びその他四名の王子は我々ととともに食卓に座られ食事をされた。その際王子達は我々のテーブルマナーも料理も大変気に入り、ご自身も我々のテーブルマナーを身につけようとしていたことに私は気が付いた。
〔薩摩の〕領主は鳥の標本の作製方法を、シーボルト博士に学びたいとの願いを表明し、そのために死んだ鳥を持参していた。食事の後、シーボルト博士はその要求に応じた。
女性達は常にその他の人々と一緒にいて大変親切で礼儀正しく全く物怖じしなかった。ここでそのような習慣がないので、食卓には一緒に座らず、夕食に別のテーブルを利用した。
老侯一行は我々のもてなしに礼を述べ、女性達ももう一度お願いしたいと表明しながら、深夜頃に帰っていった。」
四月一九日の訪問については商館長デ・スチュルレルしか言及していない。今回は昌高は桂川甫賢とともに夕食を取った。
「夕方、中津候が来られ私のところで皇帝の医師ボタニクスと一緒に夕食を取った。」
四月二三日の夜に関するシーボルトの記述はないが、商館長デ・スチュルレルは昌高一行の訪問と贈り物の交換を描写している。
「夜七時頃に中津侯は、息子二人（九歳と一三歳）及び二人の妾と五名の女中と一緒に私の所に来られた。王子は大変かわいらしい犬、及び二つの花潅木をくださった。若い王子達と妾達からも幾つかの小さな贈り物をいただいた。私はお返しに侯に対し、金メッキの釦付きチンツ製のベルトを四つ贈り、若い王子達に珍しい覗き箱及び金唐皮と小型望遠鏡を一つずつ進呈し、また、貴婦人達と女中には花模様の布巾、小さな指輪、宝石付きの留め針などを贈った。王子一行は夜を私のところで過ごし食事を一緒に取り、深夜頃帰っていった。」
四月二五日の医師たちと桂川甫賢及び薩摩藩主の婦人たちの訪問にはデ・スチュルレルは興味がなかったようだ[82]。翌日及び五月七日の昌高による訪問に関する情報はシーボルトしか伝えていない。
「再び二人の子供に種痘した。夜に中津の領主が訪れた。」
「五月七日 夜、中津侯来訪。贈物として鷹狩の道具をうける。天文学者グロビウスこと、高橋作左衛門が蝦夷・樺太のすばらしい地図を私に見せた。サンガル海峡を津軽海峡と呼んでいる。樺太とアムール河の河口の間は間宮の瀬戸という。私は彼を通じ、この群島についての地理学的著作、すなわち日本人、間宮林蔵の山丹旅行に関する日記・樺太の記述をもらう約束をとりかわす。天文方の多くの人たちが今日公式に訪問する。[85]」
五月八日の来客についてはデ・スチュルレルしか述べていないが、シーボルトが日付を間違えていて、七日の記述がそれを指している可能性もある。
De vorst bleef souperen en toen ik vernam dat de K: Astronomist nog bij den Dr was, liet ik denzelven bij ons aan tafel verzoeken en hij kwam met den Dr — zeer voldaan schijnende over de attentie die ik hem had bewezen, hij vertrok omstreek elf uren en de Prins om bij middernacht.[86]
「その後政治学の話で皇帝の天文学者の帰るのを待っていた中津侯（旧領主）が数名のみの同伴者とともに私の所に来られた。閣下から、絹を二枚と大変きれいな日本風の陶器製蝋燭立てをいただいた。後者は尾張で私のために製造させたものであると、閣下が教えてくださった。それに対し、私は小さな陶器製食器セットを渡し、彼は大いに満足し礼を言いながら受け取った。
領主は夕食のために残り、皇帝の天文学者がまだ医師の所にいると聞いた時、彼も一緒に食事するように誘った。彼は医師と一緒に来て、私が示した気遣いに大いに満足したようだった。彼は一一時頃、そして王子は一二時頃帰っていった。」
五月九日から一四日にかけてシーボルトは友人及び知人の来客が非常に多かったとしか記していないが、デ・スチュルレルは五月一〇日の昌高の訪問に触れている。商館長一行の出発は間近であったので、互いに様々な贈り物を交換した。
「夜は中津侯、その息子（一三歳）及び二人の妾とその女中が私の所を訪れ、今月八日の閣下への贈り物に対する返礼として、大変美しい漆の小箪笥及び私のために作った日本風の夏の着物（帷子）をくださった。後者は私を気遣い、私の家紋を入れて作ってくれたものだった。若き王子は大変きれいな漆塗りの小さな茶碗を、妾達も以前贈ったものに対する返礼の品をくださった。私は後者に絹布、留め針、小さい宝石付きの小さな指輪を、若き王子に印と宝石付きの時計用鍵を贈り、それに対し彼は自分が使っていた三徳[88]をくださった。王子は私の所で夕食を取った。私は彼に油と酢の水晶製のセット及び磁器の花瓶を二個差し上げた。」
五月一八日、商館長一行は長崎へ旅立った。高齢の島津重豪は品川で別れを告げ、奥平昌高は初顔合わせの場だった大森まで足を運び商館長一行を見送る。
「われわれは有名な日本橋・京橋を渡って進み、芝口・金杉、海のすぐ近くにある高輪・品川の町を通って行った。品川では八二歳になった薩摩の老侯（島津重豪）がわれわれをもてなして下さった。侯はまだまだ強壮・快活で話好きな方であった。［中略］老侯は少しばかりオランダ語を話し、一七八〇年代に来日した商館長ティチングをよく知っていたという話をされた[90]。大森の村では、馬で先に来ておられた中津の老侯（奥平昌高）がわれわれと別れを惜しまれた。[91]」
商館長デ・スチュルレルは大森での様子をシーボルトより詳細に描写している。
「昼頃出発し、大森（大きな森）において薩摩の老領主（彼がこの出会いを希望した）や中津侯及びその次男左近様と出会った。彼らは大変親切に我々を歓迎し、幾つかの贈り物をくださった。前者の王子（薩摩の老領主）の贈り物は、美しい琉球風の赤い漆で塗られた食品用の小さなカゴで、中に日本の美味しい食べ物が入った七宝焼の小皿と琉球の酒の大きな瓶が入っていた。老王子は特に大変親切で愛想がよく上機嫌で、自ら我々に酒を注いでくださり、また閣下はオランダ語を大変明瞭に分かりやすく話した。我々は領主に別れを告げ、大仏前へ行った。私は以前、乗馬の大変上手な中津侯の乗馬姿を見たいというお願いをしておいたので、侯は五、六人の召使いとともに馬に乗り、我々を追い越した。閣下は大仏前で我々を待ち、そこの茶屋で我々をもてなし、その際地元で作られたかわいらしい藁製品をくださり、さらに私は大変きれいな杯の一箱をいただいた。我々は閣下に別れを告げ、七時半頃川崎に着いた。」
文政九（一八二六）年は昌高とヨーロッパ人との直接交流の最も活発な年だった。特に四月には数日置きに昌高が長崎屋に現れ、商館長一行と一緒に夕食を取った。息子たちや夫人たちを連れて行き、家族ぐるみの交流ということもあれば、蘭学者とともに訪れる場合もあった。音楽、歌、書籍、道具、薬、標本、家具類、西洋の礼儀作法などオランダ人との異文化交流の内容は充実したものだった。また、その高齢にもかかわらず、知的好奇心旺盛な実父重豪の姿も実に立派である。自然標本を贈ったり、日本の最も危険な病気の治療法に関する資料を求めるなど、シーボルトの本草学・医学の弟子になりたいという意欲で息子昌高を凌ぐような場面さえあった。
五、仲介役を務めた藩士神谷弘孝（源内）について
昌高と西洋人との交流は、神谷弘孝を抜きにしては十分に描写できない。源内の生涯に関する資料はとても乏しく、生年月日さえ明らかではない。先行研究によれば彼は豊前の人で、名は弘孝、通称源内、号を二洲と称する中津藩士だった[93]。再調査を試みたときに、「奥平藩御家中系図」（享保七年）に神谷成右衛門の家系を見つけられたが、一七二二年に書かれたこの家系図と昌高公時代の神谷家との関係は確認できなかった[94]。その後、中津歴史民俗資料館の保科眞氏より神谷弘孝の家系図を示す写本をご教示いただいた（図三）。
この略譜は主な家系を示しているが、平成一八年初頭に中津村上医家史料館を訪れた神谷正夫氏にご提供いただいたさらなる二種の系図により、上記の史料の確認と補充が可能になった。史料の一つは宝暦三年一月一五日に「神谷源内」がまとめた「神谷氏略譜」で、上記の「奥平藩御家中系図」に見られる神谷成右衛門の系図と基本的に一致しており、両系図は互いに補い合い様々な詳細な記述を含有している。もう一つの史料は享和二（一八〇二）年に始まり天保一五（一八四四）年に終わる幕末期や明治初期頃の抜粋である。ところどころに見られる抹消、訂正及び附箋は、急いで作成されたことを示しているが、中津藩に仕える神谷源内弘孝に関する数多くの事項を伝えている（図四）。
弘孝
母右同
養母 阿部豊後守様家来、神屋弥八姉
昌高公御代
［一八〇二］ 享和二壬戌年十月七日、大手御勤番中、表御小姓御雇被仰付、六人扶持被仰付下同三癸
［一八〇二］ 同三癸亥年月日、表御小姓御雇、首尾能被成御座候
同年十月二十八日、剣術出精ニ付、御上下拝領被仰付候
［一八〇四］ 文化元甲子年八月七日、表御小姓御雇被仰付、六人扶持被仰付下候
同日、仮御近習被仰付下候
［一八〇七］ 同四丁卯年五月廿八日、御近習被召出、御宛行籾拾五石六人扶持被下候
［一八〇八］ 同五戊辰年十二月二十五日、兼て貞実之趣、其上武芸出精ニ付、御上下頂戴被仰付候
［一八〇九］ 同六己巳十二月十九日、御手道具預仮御役、被仰付候
［一八一三］ 同十酉年六月二十五日、御小納戸御役、御手道具預兼帯、被仰付候
［一八一四］ 同十一甲戌年九月朔日、来亥四月、於日光山東照宮、二百五拾回御忌御法事、萬願御執行之節、日光長坂口御勤番、被蒙仰ニ付、御供被仰付候
同年十二月五日、家督無相違被仰付候
同年月日不相分、剣術出精ニ付、御上下頂戴被仰付候
［一八一六］ 同十三丙子年閏八月三日、御徒頭御役、御小納戸・御手道具兼帯、被仰付候
［一八一七］ 同十四丁丑年八月九日、御側御取次御役、御徒士頭・御小納戸・御手道具兼帯被仰付候
同年九月十五日、御徒頭首尾能被成御座候
［一八一八］ 文政元戊寅年五月十八日 昌高公、小屋 江御内々被為入候
同年十二月十八日 昌高公、松平宮内大輔上野小幡主[97]御同道ニ而、小屋江御内々御被為入候
［一八一九］ 同二己卯年正月十一日、御帰城御供立帰被仰付、御道中御小納戸相勤申様、被仰付候
同年五月日 昌高公、成瀬隼人正様[98]御同道ニ而、小屋江御内々被為入候
同年十二月、来度御着府御迎被仰付候、御道中御小納戸相勤候様、被仰付候
［一八二一］同四辛巳年四月朔日、御役分之御用向、格別出精相勤候ニ付、銀五枚頂戴被仰付候
同年八月、奉願候通、次男鐐吉義、公儀小普請申、馬場佐十郎養子、被仰付候
［一八二二］ 同五壬午年八月十八日 若殿様昌暢公御三男、勇吉様昌猷公小屋江御内々被為入候
同月三日 昌高公、毛利甲斐守長門府中城主[99]、本多伊予守様伊勢神戸城主[100]、柳沢伊勢守様越後黒川主[101]、御同道ニ而御内々被為入候
同年十月二日、昌高公、上之御子様方御同伴ニ而小屋江御内々被為入候
［一八二三］ 同六癸未年正月十一日、当度御帰城御供□□被仰付、御道中御小納戸相勤候様、被仰付候
同年五月十三日、御物頭席被仰付候、勤方是迄之通
四月二十六日 昌高公、松平佐渡守様出雲広瀬主[102]、松平主税様[103]、御同道ニ而御内々被為入候
同月二十七日 昌高公、嶋津左近様[104]御同道ニ而、小屋江御内々被為入候
同年八月四日 昌高公、松平栄翁様昌高公御実父嶋津左近様、松平主税様、小屋江御内々被為入候
［一八二四］ 文政七申年十二月十五日、御用人御役御側御取次、兼帯被仰付候
［一八二五］ 文政八酉年三月廿八日、娘死去ニ付、為御悔御使被成候、若殿様ゟ、御伝言之御意被成下候
［一八二五］ 文政八酉年五月六日 奥附御役兼帯被仰付候
同年十月四日 三郎様、御養子御用懸被仰付候
昌暢公御代
［一八二八］ 文政十亥年十一月廿八日、於御前御用人御役、被仰付候
［一八二八］ 文政十一己年五月十一日、奥附御役中□三郎様、御養子御用懸出精ニ相勤ニ付、金弐百疋被下候
［一八二九］ 文政十二丑年六月十七日 御前様栄姫様御事御産之節、御蟇目[105]之御役、被仰付候
同年十二月逆日、来度御帰城御用懸、被仰付候
［一八三〇］ 天保元寅年十二月廿五日、御普請御用懸出精ニ相勤候ニ付、御小袖壱頂戴、被仰付候
［一八三一］ 天保二卯年正月十一日、当度御帰城御用懸、被仰付候
同年十一月十一日、娘婚姻ニ付、御怡之使被成候、御隠居様ゟ、御伝言之御意被下成候
昌猷公御代
［一八三三］ 天保四巳年二月十五日、当度御初入部御用懸、被仰付候
同年同月廿八日 昌猷公、御家督被為済被為御祝義、御手自御継上下・御小袖頂戴被仰付候
同年四月卅日、御初入部御用懸、御差繰を以被成御座候
天保四巳年五月八日 機姫様御婚姻御用懸、被仰付候
同年同月同日 御家督御用多之処、出精相勤候ニ付、銀七枚頂戴被仰付候
同年六月五日、忰源内婚姻相整候ニ付、為御忰御使被成下、御隠居様ゟ、御伝言之御意被下成候
同年十二月四日、養母死去ニ付、為御悔御使被成下、御隠居様ゟ、御伝言之御意被下成候
［一八三四］ 天保五午年六月十二日、御用人御役、願之通被成御免候、奥向無案内御内證、御機嫌伺被仰付候
［一八三五］ 天保六未年二月廿八日、御用人御役中、鈴姫様御婚礼御用懸、出精相勤ニ付、御小袖壱・銀三枚頂戴、被下成候
同年五月廿八日、御奏者番席を以、御休憩奥附御役、御賄頭兼帯、被仰付候
同年十二月朔日、来申年御休憩、御年男被仰付候、右ニ付御熨斗目壱領、御長袴壱具頂戴、被仰付候
［一八三七］ 天保八酉年十二月朔日、来亥年御休憩、御歳男被仰付候
［一八三八］ 天保九戌年正月十五日 昌猷公、御重年ニ付御休憩、御歳男被仰付候
右同断ニ付金弐百疋頂戴、被仰付候
同年八月三日、御奏者番席を以、御物頭御役・奥附御賄頭兼帯被仰付候
［一八三九］ 天保十亥年七月廿一日、御物頭御役、奥附御賄頭兼帯被御役、病気ニ付願之通、首尾好被成御免候
［一八四一］ 天保十二丑年九月廿一日、病気ニ付願之通、隠居被仰付、忰源内家督無相違、被仰付候
妻 岡見弥兵衛古廉妹
弘化三丙午年七月廿九日卒、五十七歳
法名、蘭室妙秀信女、東海寺登塔中
清光院ニ葬ル
弘孝の「職歴」は享和二（一八〇二）年に始まっている。当時十数才のはずだった彼は、まず小性として藩に仕え、若者らしく武芸、とりわけ剣術に励んでいた。その後、小納戸、手道具預、徒頭、側取次、徒士頭などを務めながら家来として順調に出世していった。しかし蘭学との関わりは示されていない。彼が大いに貢献した『蘭語譯撰』の出版年には何の記述もなく、オランダ人との数々の接触にも言及していない。それに対し昌高公と一連の大名同士との交流を示す記述は興味深い。文政元年から文政六年にかけて見られる「内々に入らせられた小屋」とは江戸詰め藩士の住んでいた宿舎だったであろう。
出島商館長ドゥーフに蘭名を与えられてから源内は欧文資料にピーテル・ファン・デル・ストルプ（Pieter van der Stolp）として現れる。西洋人の残した様々な記述に、彼は「皇帝の医師」、「皇帝の天文官」たちと同様、役職のほかに名前も記されており、ときには贈り物も受け取っていることから、ヨーロッパ人に大変重要視されたことは間違いない。
『萬目録』にはブロムホフ宛ての土産（prezent）のために桂川甫賢が書いたオランダ語文が残っている。署名の三名は桂川甫賢、神谷源内及び菓子商人の伊勢屋七左衛門兵助である[107]。同じ史料に一連の活字印刷の「蘭語名刺」も含まれており、ここにも源内の名が見られる。
Dienaar van
Landschap Nakatsu
in 't BOEZEN.
（ピーテル・ファン・デル・ストルプ、豊前の中津地方の家臣）
源内の自筆と思われるものもある。
前者の活字は一八一〇年に刊行された『蘭語訳撰』の字体と一致している。
『蘭語訳撰』の前書きに、藩の重臣である神谷弘孝（Kamia Filojosi）は、阿蘭陀通詞馬場佐十郎が習い覚えた単語をすべて書き留めたとある｡上記の神谷正夫氏の系図（図四）によれば、源内の次男鐐吉義は文政四（一八二一）年に馬場佐十郎の養子となった。二人の関係は大変親密だったに違いない。その他の江戸の蘭学者らとの関係を示す別の記述はすでに上記に紹介してある。それらを総合すると、源内は桂川甫賢、大槻玄沢、宇田川玄真、高橋景保、馬場佐十郎、鷹見泉石、犬山藩士辻村仁兵衛、伊勢屋七左衛門らと交流があった。
すでに述べたように、文政七（一八二四）年に、デ・スチュルレルは出島で源内の子KioezooにKlaas Kroonと命名したようである[109]。上記の家系図（図四）によればこの神谷鎌次郎久蔵は文化七（一八一〇）年一一月二一日に生まれ、文政六（一八二三）年から藩に仕えるようになった。
嘉永三（一八五〇）年に松代藩の佐久間象山は深川藩邸で砲学の教授を始め、翌年頻繁に藩地と江戸を往復、江戸木挽町に塾を開いて砲術を教授し､各藩からの依頼で大砲の鋳造や演習を行った｡「及門録」を調べると、嘉永三年の門下人の半分以上は「奥平大膳大夫御家来」で、その中に神谷源内も含まれていた[110]。これは文化七年生まれの長男鎌次郎（久蔵）である。神谷正夫氏の系図に関連の記述が残っている。
翌年、彼の稽古振りは高く評価されている。
嘉永五年には、象山に依頼した大砲二門が中津に到着した[111]。異国船の脅威に対しては中津藩もその責任を十分に果たし、洋才を学び、和魂を捨てずに国を守るという姿勢だった。
幕末になると中津藩が江戸の家臣を中津へ戻し、高畑、下の新地及び金谷の森の屋敷を与える。神谷源内という名は高畑屋敷の図に確認できる（図五）。
久藏は『扇城（せんじょう）遺聞』掲載の江戸定府の引っ越しに関する文久三（一八六二）年一一月一五日の史料にも登場する。
神谷久藏様 上下五人
篠原甚平様 同上
西原盛庵様 同上
長島岩右衛門様 上下六人
山崎渚様 同上
[中略]
越川仙藏様 同上
右給人衆之分は御一人前中間一人宛之見込にて手當を置候様御沙汰に相成候間中間分相増置候[112]」
辛島詢士が所蔵していた「嘉永六年中津藩医御役日記」に神谷源内の名が見られたと本人が報告している[113]。また、生田重倫は「神谷源内」という見出しの下に家系について述べ、その中で「神谷潤亭は名は不学一思庵と号し医を以て業とす蘭学に通し」と新たな情報を述べている[114]。ただし、この潤亭が源内と同一人物であるかは不明である。しかし、医療活動などに光を当てる記述は見当たらず、上記の欧文資料に、父弘孝は常に昌高の「dienaar」、「lijftrabant」、「secretaris」、「Dolmetscher」（召使い、執事、家臣、秘書、通訳）としてしか登場していない。このような活動は一連の系図史料でも裏付けられている。
 図四 明治期の中津図に見られる神谷源内の住居地（中津市簗一人氏所蔵） |
シーボルトによれば、彼は多少太り気味の体格で、その笑い声は大きかった[115]。
源内と親しく付き合った馬場左十郎は『蘭語訳撰』の序言で源内の編纂上の貢献について述べている。
de ondergetekende van voorleeden jaar op Keijzers order aan’t hof in Jedo zijnde, op zekeren tijd door gemeld vorst verzogt zijn, om op een gemakkelijke wijze de hollandse taal te leeren, daartoe een middel uit te vinden. hoe wel ik door veel keijzers zaaken geen tijd heb, ben ik egter over de leerzugtigheid van den vorst zeer vergenoegt, en heb alle de woorden die ik van buijten geleerd, door zijn edele dienaar Kamia Filojosi laaten afschrijven en daarna heeft den vorst zelfs verzameld, het welt [= het welk] dit deel behelst zoo als men het hier zal ontwaaren.
geschreeven door zijn hoogheids altoos berijd willige dienaar Baba Sadayosi
keijzerlijk translateur van hollands taal te nangasakij
te Jedo Ao 1810 of ‘t nengo Boenkwa 6de Jaar.
「この世界はずっと昔からヨーロッパ､アジア､アフリカ､アメリカという四つの部分に分けられている｡どの部分にも人が住んでいるが､異なる性質､気質や言語などを持っている｡ヨーロッパ人の性質と気質をアジア人のそれと比較すると､ヨーロッパ人は石のようで､アジア人は木に例えられる｡石は重くて水に沈んで静かにしている｡木は軽くて浮くものである｡このためヨーロッパ人は静かで落ち着いた性質のお陰で、大変不思議な技術を発見することができるが､アジア人はこのようなことがめったにできない｡このことから中津候は、ヨーロッパの書物を通して有用で聡明な技術を見出し､それをもって自らの様々な領民に分別を持たせ有能にするために、すでにオランダ語の勉強を始められたのである。署名者は昨年以来皇帝の命により江戸の宮廷にいるが､ある時、上記の候にオランダ語を容易に学べるような手段を見つけるよう依頼された｡私は皇帝の用で時間がないが、候の向学心を大変嬉しく思い､自分が習い覚えた単語をすべて、候の重臣である神谷弘孝に書き取らせた｡その後、ここで認めるべきことだが、候はご自身でそれを集編し、この分を含むものにした。
一八一〇年すなわち文化六年116] 江戸にて
常に進んで奉仕する候の僕、長崎における皇帝のオランダ語通詞
馬場貞由 謹書」
天保（十二一八四一）年、弘孝は病気のため隠居し、文政六年から藩に仕える長男鎌次郎（久蔵）は家督となった。
源内は相当なオランダ語力の持ち主として『蘭語訳撰』の編纂に貢献したのみならず、江戸の蘭学者やオランダ人と交流しながら藩主昌高と歴代の商館長との接触の場を準備し、その円滑な運びに気を配る、極めて優秀な中津藩士だった。
六 シーボルト事件以降の昌高公の動き
一八二八年の秋にシーボルトが国外へ持ち出そうとした荷物の中に、幕府天文方の高橋景保らから入手した日本略図や蝦夷地図、葵の紋服などがあることが発覚し、いわゆるシーボルト事件が起こった[117]。その後の不信感と疑念に満ちた雰囲気の中でのオランダ人との交流は当分の間難しかったであろう。また、シーボルトと密接に交流していた神谷源内も容疑者の一人と見なされたことは容易に想像できる。出島商館日記には昌高関連の記述は二度と現れない。ペリーが浦賀に来航した嘉永六（一八五三）年には、昌高は貿易の許可を提唱したといわれているが、それを裏付ける史料はいまだ示されていない[118]。昌高は安政二（一八五五）年、七四歳で没し、「龍徳院殿無方道應大居士」の法名で品川の清光院に葬られた[119]。
終わりに
上記の断片的な記述から、奥平昌高は単に舶来品に魅了された人物ではなかったことがわかる。オランダ人との贈り物の交換に関する記述はあるが、それらの量や内容は彼の身分としてはごく普通と言ってよく、注目を集めるほどではない。彼は鉄砲州中屋敷に「摸擬洋館」を建て、ガラス障子越しに江戸湾の風光を賞でていたと指摘されているが[120]、豪華な品や珍品を追求するような姿勢は現存の資料からはうかがえない。
父島津重豪のように自然標本の作製と収集に力を注ぐこともなかったようだ。二人ともたびたび一緒にオランダ人と接触し、互いの考えもよく知っていたが、父の「血を受け継いだ」としても博物学の充実を目指す標本収集家としての昌高の姿は確認できない。一連の出島商館長や医師たちと交流する中で、様々な道具、器械、書籍、医薬品などを目にする機会もあったが、昌高がこのようなものを藩の財政改善に活かそうとする様子は資料からは読み取れない。昌高の蘭学は殖産政策とは無縁だった。
領内において殿様の蘭学が及ぼした影響は限定的なものと思われる。それによる新しい物産品や産業の隆盛などはなかった。大江春塘、村上玄水、辛島正庵、神谷源内、その他数名の昌高とほぼ同世代の藩士たちは蘭学関係のすばらしい功績をあげたが、地元での蘭学がそれらの秀才たちを超えさらに広まった形跡は今のところ確認できない。昌高の蘭学が成熟し実ったのはどちらかと言えば江戸においてだった。
昌高の知的好奇心と知識欲は群を抜いていた。身分の差も気にせず頻繁に日本橋本石町のオランダ宿を訪れることにより、それなりの収穫があったはずである。オランダ人の持ち物、食品、服装、音楽、歌、学問、礼儀作法などに関する情報を積極的に吸収し自分の従来の枠を出て異文化へ接近しようとする姿はドゥーフ、ブロムホフ、デ・スチュルレル、シーボルトらにも深い印象を与えた。
そうはいっても昌高とオランダ人との接触を過大視すべきではない。彼の江戸滞在時期と商館長一行の参府が重なった年はさほど多くはなかった。ヨーロッパに関する多くの情報はオランダ人よりも、むしろ一流の蘭学者と交流のあった神谷源内らから得ていたであろう。殿様の蘭学は、優秀で人脈も豊富な側近を抜きには考えられない。昌高らの場合においても、蘭学はオランダ人によってもたらされたというより、むしろ日本人の知識欲と好奇心の賜物であり、日本人の意欲と積極性により発展していったものである。
昌高はオランダ語の文献がある程度解読できたと思われるが、オランダ人との直接交流の中で異文化理解の難しさや異文化交流における言葉の重要性を身をもって体験したに違いない。中津辞書として蘭学史に名を残した『蘭語訳撰』及び『バスタールド辞書』はこの体験が支えた見識の産物と言える。また、この二つの辞書は彼の視野の広さと、藩という枠を超えた国全体に対する使命感と責任感を物語っている。そのような意味合いで、奥平昌高は蘭学の発達及び日本の近代化に大いに貢献した歴史的人物である。
脚注
