Medical History in the Internet. In: Nihon Ishigaku Zasshi, Vol.43 (1997) No.2, pp. 241- 248. 
ヴォルフガング・ミヒェル「インターネットにおける医史学」『日本医史学雑誌』第43巻第2号1997年241〜248頁。


ヴォルフガング・ミヒェル

インターネットにおける医史学


インターネットの急速な発展により、最近では科学史や医史学の分野においても世界中の図書館や公文書館の目録、または展示会、学術雑誌、写真、データベースなどの資料が利用できるようになってきた。学術機関の多くもこのWorld Wide Web(WWW)に繋がっている。利用者の職場のコンピュータがインターネットに接続していれば問題ないが、自宅から個人的にアクセスしようとすれば、パソコンの他に高性能のモデムが必要となり、さらには、いわゆるインターネット・プロバイダと契約しなければならない。このような会社および技術的な条件などについては溢れるほどの書籍や雑誌が情報を流している。ネットスケープやインターネット・エクスプローラというブラウザ(browse=拾い読みする)の使用もそれほど複雑ではなくなった。そこで医史学における現状を概観し、その利用法について紹介する。

 

拠点としてのWWWサイト

科学史や医史学について幅広い情報が得たければ、WWWでは幾つかの研究機関が出しているホームページから始めるとよい。ここでは非常に有用と思われる幾つかの例に留める。

http://www.anes.uab.edu/medhist.htm [インターネットにおける医史学]
http://www.asap.unimelb.edu.au/hstm/hstm_ove.htm [科学、技術、医学史]
http://www.welch.jhu.edu/history/IOHMhome.html [ジョンス・ホプキンス大学医学史研究所]
gopher://una.hh.lib.umich.edu:70/00/inetdirsstacks/medhist [ミシガン大学、インターネットで医学史をサーフィン]
http://www.soas.ac.uk/Needham/Chimed/home.html [中国医学史、中国及び台湾へのリンクもあり]
http://www.uib.no/isf/guide/history.htm [プライマリケア・医史学]
http://www.aahn.org/ [米国看護史協会]
http://members.aol.com/NsgHistory/AAHN.html [医学ウェッブ、歴史ページ]
http://web1.ea.pvt.k12.pa.us/medant/ [古代医学、基本文献の目録もあり]

このサイトは医史学的に価値のあるその他のホームページも多くリストアップしている。該当する名前をクリックすると博物館や展示会、大学、図書館、公文書館、データベース、電子雑誌等々に繋がる。すべての情報が定期的に更新されているため、これらの「拠点」には時々目を通すといいだろう。

現在は英語圏のサービスが圧倒的な地位を占めているが、次第にその他の言語圏のホームページも台頭しつつある。たとえばノルウェーのベルゲン大学はあらゆるウェッブサイトを踏まえながら理髪外科医の歴史を紹介しているし、医史学関係のその他のページもかなり増えてきている。ポルトガルで出来上がりつつある薬学史のデータベース(http://www.anf.pt/histfar/index.htm)は南蛮医学を研究する際かなり役に立つであろう。


検索について

インターネット・ジャングルの中から特定の情報を探すにはYahoo、CrawlerやInfoseek、Magellanのような、いわゆるサーチエンジンが便利である。たいていはアメリカの会社が無料で提供しているサービスで、そのため英語圏の情報はほとんど把握している。また、ヤフー・ジャパン(http://www.yahoo.co.jp/)のように地域的なサービスも行われるようになった。

検索に際しては検索ウィンドウに検索語を入力する。複数のキーワードを入力する場合には、サーチエンジンがこれらの単語列をどのように解釈するのか、確認しておかなければならない。「Ambroise」または「Pare」での検索と、「Ambroise」及び「Pare」での検索では全く異なった結果となる。「surgery」のように一般的すぎる検索語では何千ものホームページが現れるので、できる限り精確に規定した方がよい。現在ではMetacrawlerなど、幾つかのサーチエンジンはそれ自体で別のサーチエンジンを何十も用いているものもあるが、これは結果が画面に現れるまでに時間がかかる。一般にサーチエンジンで何かを探すには、その国のものか、それともその言語圏のものかを用いる方が使いやすい。どのようなサーチエンジンがインターネット上にあるのか、たとえば「search engine」などを検索語として入力すれば専門性の高いものもわかる。


研究者のアドレス、所属などの検索


もちろんサーチエンジンの検索ウィンドウには研究者や著者の名前を入力することもできる。そうすれば、その人の名が挙がっているホームページなどにたどり着ける。ホームページにはたいてい電子メールのアドレスも載っている。ここをクリックすればウィンドウが開き、相手にメッセージを送ることができる。YahooやInfoseekなどのサーチエンジンはメール・アドレスを検索するために専用のボタンを用意している。


電子ブック、電子雑誌


西洋の古典文学の多くがすでに電子テキストとして無料で提供され、電子雑誌も増加している。The World-Wide Web Virtual Library Library of Congressが提供する電子雑誌の一覧表(http://www.asap.unimelb.edu.au/hstm/hstm_jou.htm)、約20の科学史関係の電子雑誌(Electronic Journals)があるが、残念なことに医学史はこの分野ではまだほとんど未発達のままになっている。看護史だけはかなり進んでいる分野のようである(http://users.aol.com/NsgHistory/NHR.html [Nursing History Review]、http://www.nursing-standard.co.uk/ihnj.htm[International History of Nursing Journal])。

電子ブックに関してはエール大学付属図書館の企画は興味深い(http://www.med.yale.edu/library/historical/siderits.htm[医学史における電子テクスト])。


博物館、展示会および特定のテーマのホームページ

アメリカやヨーロッパでは公共施設として美術館や博物館がホームページを持つことも多い。そのリストは http://www.asap.unimelb.edu.au/hstm/hstm_mus.htm に掲載されている。そこでは頻繁に展覧会も催されているが、それは実際に催されていたり、インターネット上だけの、いわゆる仮想展覧会だったりする。その一例は、Cesarean Section - A Brief History、Exhibit of historic microscopes、From Quackery to Bacteriology: The Emergence of Modern Medicine in 19th Century America、History of Heart Disease、History of the Light Microscopeである。

ホームページの中には時々、特定の著書や人物を対象にしたものも見られる。たとえばVesaliusの著名なDe Humani corporis fabricaを検索語として入力してみると様々なホームページが現れてくるし、Paracelsusをたたえるサイトも驚くほど多い。このようなホームページは冒頭で述べた大型サイトに登録されていることもあるが、たいていはインターネットのサーチエンジンによって見つけださなければならない。


画像データベース WWWのhttp://wwwihm.nlm.nih.gov/ には、医史学関係の画像を提供する優れたコレクションがある。目録は見出語で検索でき、全ての画像に確かな出典と説明が付いている。版権上の問題があるとその映像に斜線が施されているが、料金を払って注文することはできる。それ以外の画像は画面から自分のフロッピーディスクなどにコピーし、(できるだけ高性能の)プリンタを使い、印刷することもできれば、またこのような図を自分の論文に取り入れる場合、どの出版社のものでもこうしたデジタル・コピーはそのまま利用できる。 また、右のインターネットのサーチ・エンジンでは特定の人物などについての画像を検索する方法もある。画像専用のサーチ・エンジンは例えば次のWebアドレスから利用できる(http://isurf.yahoo.com/isurf.html[Yahoo Imagesurfer])。


図書館の遠隔利用 大きな図書館はたいていその目録と検索システムをWWWに接続するようになった。図書館のWebアドレスを見つけるには、その名称を検索すればよい(下記参照)。図書館のホームページにはその国や地域の図書館のリストが載っていることが多く、名称をクリックすれば接続するようになっている。図書館の電子カタログ(著者検索、表題検索、見出語検索など)を利用するためには常に簡単な手引が出されている。ただ、特に古い蔵書はまだ完全にはコンピュータに登録されてない場合も多い。医史学の分野においては、エール大学のHistorical Medical Library(http://www.med.yale.edu/library/historical/)はすでに充実しているよい例になろう。 残念ながら、医史学図書館で世界的に有名なロンドンのWellcome InstituteはまだTelnetという旧式の文字ネットワークを通じてしかアクセスできない。幸いに現在のWWWブラウザにはこのTelnetの機能が追加されており、open locationコマンドを用い、telnet://wihm.ucl.ac.uk/を入力すれば、選択メニュー式の図書目録が利用できる。書籍と論文の夥しい数に圧倒されかねないほどである。 広範な医学史関係の書籍コレクションへは冒頭の大型サイトから接続できる。ここに有用と思われる起点を挙げる。(http://www.mc.vanderbilt.edu/biolib/archives/[Medical Archives - Eskind Biomedical Library]、http://www.nlm.nih.gov/hmd.dir/hmd.html [US National Library of Medicine, History of Medicine Division]、http://www.welch.jhu.edu/history/IOHMhome.html [Institute of the History of Medicine, Johns Hopkins University])。


医学史関係の電子メール・リスト

インターネットには医史学関係の討論および連絡フォーラムもできている。例えばmailserv@beach.utmb.edu宛に「subscribe Caduceus-L」という内容で電子メールを送っておけば、主としてアメリカ合衆国の最新の展示会や新刊の書籍、あらゆる問い合わせやその回答等々が定期的に自分のメールボックスに入ってくる。自分自身の回答や問い合わせ、メッセージなどを電子メールでサーバーに送っておけば、グループの会員全員に自動的に転送される。もちろん会員と個人的にメールのやりとりをすることもできる。ラテンアメリカについても同様のサービスがある(Finlay-L - Latin American History of Science, Medicine and Technology)。この場合はfinlayad@Colciencias.gov.coに電子メールで申し込めばよい。majordomo@ccat.sas.upenn.eduへ「subscribe chimed」というメッセージを送れば中国医学のリスト(ChiMed: The Chinese Medicine Discussion List)に登録される。またmailbase@mailbase.ac.ukに氏名(例えばIchiro Tanaka)を送れば、興味深い「History of ideas」のメール・サービスが受けられる。ウエッブ・ページhttp://www.asap.unimelb.edu.au/hstm/hstm_ema.htmでは科学史などのディスカッション・グループについて概説している。


ユーズネット(Usenet)

ネットスケープとインターネット・エクスプローラの最近の版では、これまで専用のソフトウェア(Newswatcher等)が必要だったユーズネットへのアクセスが可能になっている。ここにはまず、現在約六千から七千の、いわゆるニュースグループ(newsgroup)のリストがある。このニュースグループはそれぞれがひとつのフォーラムとなり、特定のテーマに対して意見を述べ、問い、提案し、助言を乞うことなどができる。たいていはそのグループの名前から、内容がわかるようになっている。そこに掲示してあるテキストに対して意見を述べたり、質問がしたければ、「メール」のコマンドにより画面に書式が現れるので、文章を入力し、送信する。遅くとも翌日にはその文章はグループのリストに現れ、それから何日間かは世界中の読者に読まれ、コメントが加えられる。先に述べた電子メール・ディスカッション・リストでは登録した会員だけがアクセスするが、ニュースグループは世界中の誰でも参加できる。医史学に専念するニュースグループはまだできていないが、alt.soc.history.scienceというグループではこの分野も扱っている(物理学史、生物学史、社会科学史、医学史、工学史、数学史、科学哲学など)。


日本の状況について

アメリカでの活動に比べれば、日本も含めて他の国々においてははるかに遅れている。「医史学」、「東洋医学」、「蘭学」、「洋学史」等のように一般的な検索語でもヤフー・ジャパンでは二、三の特別展示会の古い案内(「日本近代科学の黎明〜蘭学」http:/www.ll.chiba-u.ac.jp/toyoigaku/、「シーボルト父子のみた日本」http:/www.minpaku.ac.jp/prodocs/prod/tokuten3.htm)を別にして、診療所や鍼灸院などの開業医によるページしか示してくれない。検索をほとんどあきらめかけていたとき、日本医史学会会員の川嶋眞人氏による、中津にある村上医家史料館のページ(http://www.coara.or.jp/~gensin/murakami.html)が現れた。かつて前野良沢や福沢諭吉などを輩出した中津藩のパイオニア精神は今日もなお健在のようだ。

ここで述べたウェッブ・アドレスおよびその他の有用な情報は筆者のホームページ(http://www.rc.kyushu-u.ac.jp/~michel/)に掲載してある。

 

 

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