Nishinihon-Shinbun, 11.4.1998, Evening edition, p.1 西日本新聞、1998年4月11日(土)夕刊、1頁。

 

16世紀から18世紀の欧州医書150冊 - ドイツ人教授が発見


16世紀から18世紀のヨーロッパの医学書約百五十冊が九州大箱崎キャンパス(福岡市東区)の書庫に湿気とほこりにまみれて放置されているのを、九大言語文化部・大学院比較社会文化研究科のヴォルフガング・ミヒェル教授(51)=欧日文化交流史=が発見、付属図書館医学分館(同区馬出)の貴重図書室で保管されることになった。人間が生きているかのように生き生きと描かれた解剖図など古代医学から近代医学への移行期の貴重な医学書という。日本には存在しないといわれていたため、同教授がわざわざ母国のドイツで閲覧していた文献もあり「こんな近くにあるとは本 当にびっくりした。かわいそうな本を助けられた」と喜んでいる。

同教授は昨年初め、研究用文献を探しに書庫に入ったところ、16、7世紀の書物の特徴である白いヤギ革カバーの本があることに気づいた。「探していた本のことは忘れ、ほこりで背広が駄目になるほど」古書探しに没頭した。以後6、7回にわたって雨がっぱ姿で調査。これらがドイツ語やイタリア語などの古医書であることを確認した。

最古のものは、フランシスコ・ザピエルが鹿児島に上陸し、キリスと教を伝えた1549(天文18)年に刊行され、ヨーロッパでも奇書といわれる「サレルノの医学」。


古医書を探し出したミヒェル教授。福岡市東区馬出、九州大学付属図書館医学分館

手書きのもの3冊もあった。多くは箱に入れられたり、束ねられたりしたままで「ヨーロッパで学んだ医学部創立期の教授が持ち帰り、研究室で所有していたものだろう。改築などの際に持ち出されたのではないか」と同教授は推察する。

出版の時期は古代医学から近代医学への移行期。同教授は「当時の人間観、病気や死に対する考え方が分かる貴重な情報源。これらの本には物語もある」という。解剖図の中には、林や街などの風景をバックにポーズをとるものもある。頭や手足といった部位ごとに描かれるのでなく、あたかも命ある人間のように解剖図が描かれている。

「解剖台上の死者が復活したようだ。人の体の美しさや生きる喜び、図によっては悲しさやむなしさがある。細胞、遺伝子レベルの研究が重視され『人間』が視野から消えている今の医学書とは違う」と同教授はいう。

古医書の一部は5月11日から17日まで九大開学記念行事として付属図書館(東区箱崎6丁目)で開かれる「貴重文物展観」で公開されるが、同教授の気がかりは今も書庫に残る19世紀以降の文献だ。「置き場がないために泣きながら1800年で線を引いた」という文献は、なお相当数に上るとみられる。

 

 

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