Wolfgang Michel: Research Notes (Kyushu University, Fukuoka 2 Dec. 2002)

博物学者ヴァレンティニの宝函

Michael Bernhard Valentini's Museum Museorum

Museum Museorum Oder Vollstaendige Schau-Buehne Aller Materialien und Specereyen [...] von D. Michael Bernhard Valentini [...]. Johann David Zunner: Frankfurt am Main, 1704.

ミヒャエル・ベルンハルト・ヴァレンティニ(Michael Bernhard Valentini, 1657 - 1729)は、英国、オランダ、フランスへ旅し、大学で医学を学んだ後、中部 ドイツの都市ギーセンの医学部教授となった。ドイツの自然科学者協会 Leopoldina及び英国の学士院(Royal Society for the Promotion of Science)に所属し 、世界中の学者たちと手紙による交流を活発に行なった。ヴァレンティニはいわゆる 「物質学者(Materialist)」であった。「物質学者」とは、薬用に利用できる世界 各地の物質(Materia Medica)を分析し研究する学者たちのことである。彼らは薬の産 地、特性を鑑定し、たくさんの偽造品の中から本物の薬を見分ける方法を開発した。 彼らの研究は、人々に安全で規格化された医薬品を供給する上で重要なものだった。 また、ヴァレンティニは、数多くの論文も発表している(下記を参照)。 九州大学医学部附属図書館に保存されている『ムセウム・ムセオルム(Museum Museorum)』は、1704年にフランクフルトで印刷された辞典である。副題に「万物の舞台 」とあり、銅版画の挿し絵がふんだんに織り込まれている。内容は、以下の章に分け られている。
(a) 鉱物と金属
(b) 種子
(c) 植物の根、薬草、花
(d) 樹皮、木材
(e) 果実
(f) 樹液、 樹脂
(g) 動物(ミイラや人間の死体の部分を含む)及び動物性のもの
さらにヴァレンティニは、多数の書物、書簡、手稿の評価を行なっており、その中に は、今日では失われてしまった著書を示唆するものもある。『ムセウム・ムセオルム 』は、フランス人ピエール・ポメー(Pierre Pomet)の『薬及び香辛料の信頼できる販 売業者』と並び、医薬品関連のリストとして当時の最も重要な書であった。また、こ れにより18世紀初頭のヨーロッパの知識水準をうかがい知ることもできる。 この著書には日本からの治療法もいくつか取り上げられているが、特に言及すべきものは銅版画の挿し絵のある灸についての章である。この章は、ブショフ(Herman Buschoff)、テン・ライネ (Willem ten Rhijne) 、ケンペル(Engelbert Kaempfer)の書い たものをまとめたもので、中央ヨーロッパにおけるお灸ブームのきっかけとなった。

Museum Museorum、扉絵

お灸


 灸による通風の治療 (この銅版画は、バタヴィアの牧師ヘルマン・ブショフの記述をもとに作成された。 ブショフは、灸術は非常に効果的で痛みもないと書いている。しかしヴァレンティニ の挿し絵は別のものを連想させたようで、医師のヨハン・クリスティアン・クントマ ンは1737年に次のように述べている。「ヴァレンティニは裸の男を銅版画に描かせた 。額、顎、足に、この火を燃やす治療が施され、男は不安げな顔つきである。」(Kundmann, p. 934) 樟脳についての章では、元出島商館長アンドレアス・クライヤー(Andreas Cleyer)に よって伝えられた、日本のクスノキのスケッチと日本の樟脳精製炉が紹介されている。


樟脳を製造すれための日本の蒸留機

朝鮮人参  (筆者蔵)

 

 

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